世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

新型コロナウイルス、イタリアの感染爆発の背景

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 今回は316日から22日までを振り返ります。

 この間、次のような出来事がありました。

 G7首脳、コロナ問題で電話会談(16日)。中国、「アビガン」を新型コロナ感染症の治療に採用(17日)。トランプ大統領、感染対策で「国防生産法」発動を表明(18日)。イタリア、感染による死亡数が中国を超える(20日)。北朝鮮国営メディア、最高人民会議が410日平壌で召集されると発表(21日)。北朝鮮、2発の飛翔体発射(21日)、などです。

 イタリアの新型コロナウイルス感染による死亡数が中国を超えたのは320日でした。その数は4032人です。

 これまでの経緯を見ると、イタリア・コンテ首相が、中国湖北省から観光で訪れていた夫婦2人が新型コロナウイルスに感染していることを確認したと発表したのは130日でした。この夫婦は123日にミラノに到着し、観光ツアーに参加していましたが、ローマで体調不良を訴え病院に運ばれていたのです。

 コンテ氏は、事の重大性を背景に131日、「非常事態宣言」を出しました。議会の承認なしに首相令を出し、個人の権利を制限する措置を取ることができるようになったのです。

 感染拡大が最も深刻な北部ロンバルディア州の医師は伊紙レプブリカで、「最初の患者は風邪と思って病院に来た。医師は対応後十分消毒しなかった」と、対応のミスがあったことを認めています。

 1月時点ですでに、州内で肺炎患者が増えているとの報告があったとも述べ、「ウイルス感染は1月には始まっていたのではないか」と語っています。

 最も深刻なロンバルディア州の病院では、人工呼吸器が足りない、集中治療室では70歳以上の患者をほぼ受け入れらなくなった、「患者の選別」が行われていると、地元メディアは報じています。

 そして、患者への付き添いは認められておらず、家族の看取りがないまま亡くなる患者も出ており、首相令により葬儀も禁止されています。通常、看護師一人の担当患者は6人ですが、現在は12人から14人に対応しており、医療用手袋やマスクも不足し、医師の死者も相次いでいます。まさに「医療崩壊」なのです。

 ここで、イタリアと中国との関係を見ておきます。

 昨年3月、習近平主席がローマを訪問し、G7との間では初めてとなる「一帯一路」の協力文書をコンテ首相と交わしました。そして、両国は今年を文化・観光交流を促進する年と位置付け、1月にローマで記念式典を開いたのです。これらの親密な関係が「裏目に出た」可能性も指摘されています。

 イタリア政府は、中国の巨額投資を財政難脱却の突破口とするために「一帯一路」に参加することを決めました。しかし、昨年の貿易は振るいませんでした。中国政府の統計によれば、イタリアの輸出総額は前年比1.7%増にとどまったのです。イタリア側では落胆の声が上っているのです。

 習氏は316日、コンテ首相との電話会談で「一緒に『健康のシルクロード』を築きたい」と語ったと報じられていますが、「悪い冗談」としか受け取れません。

 昨年9月の連立政権の再編で親EU(欧州連合)派の政党が政権入りして以降、中国寄りの政策の見直す機運が出てきています。イタリアの対中政策の見直しは必至となるでしょう。