2020.03.17 12:00
世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~
新型コロナ感染源を巡り米中で非難の応酬
渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)
今回は3月9日から15日までを振り返ります。
この間、次のような出来事がありました。
中国政府、日本人の一部の短期ビザ免除停止を通知(9日)。北朝鮮が飛翔体複数発射(韓国軍合同参謀本部発表)(9日)。韓国、日本とのビザ免除措置を停止(9日)。日本政府、輸出管理で韓国の計画歓迎(11日)。世界保健機関(WHO)がパンデミック(感染症の世界的な大流行)宣言(11日)。新型コロナ特措法が成立、首相が「緊急事態」判断(13日)。トランプ大統領、新型コロナで国家非常事態宣言(13日)。新型コロナウイルスの米軍発生源説巡り、米国が中国に抗議(13日)、などです。
新型コロナウイルス感染が米国にも大きな影響を与えています。
米国疾病対策センター(CDC)が米国発の患者発生(カリフォルニア州)を発表したのが2月26日でした。同日、トランプ大統領はペンス副大統領を対策責任者に任命しました。
さらに3月13日、トランプ氏は「国家非常事態宣言」を発表しました。
1976年に成立した「国家非常事態法」に基づく措置です。これによって大統領は議会の承認なしに予算の策定や外国資産の凍結が可能になり、政府も医療や保険に関する規制を状況に応じ緩和できることになります。
ところがここにきて、米国と中国との間で新型コロナウイルスの発生源を巡る応酬が始まりました。
中国外務省の報道官・趙立堅(ちょうりつけん)副報道官が3月12日、自身のツイッターに「米軍が武漢に感染症を持ち込んだのかもしれない」と書き込んだのです。
趙氏の意図や根拠は明らかではありませんが、1カ月ほど前から、中国のSNS(会員制交流サイト)上で、昨年10月に武漢で開かれた各国の軍人が参加したスポーツの国際競技大会で米国からの参加者が新型コロナウイルスに感染していたとの憶測情報が流れていたことを受けたものと思われています。
スティルウェル国務次官補(東アジア・太平洋担当)は3月13日、中国の崔天凱(さいてんがい)駐米大使を国務省に呼び、厳重に抗議。国務省のファラー報道官は、中国外務省報道官の発言は「新型ウイルスに関する見え透いた世界規模の情報操作だ」と断言、「陰謀論を流布させることは危険で、ばかげている」と批判しました。
中国は当初(1月末)から、新型コロナウイルスの拡散阻止対応とともに自己防衛(習体制の維持)策を展開してきました。
習主席は2月3日の党政治局常務委員会会議で「党の判断は正しく、取った措置も有効だった」との認識を示し、王毅外相は2月半ばのミュンヘン安保会議で「対応の迅速さと規模、有効性は中国の体制の優位性を示している」と演説しています。
3月に入りその傾向はさらに強くなりました。中国外務省の耿爽(こうそう)副報道局長は6日、中国はウイルスを「全人類が直面する共同の挑戦」とし、感染拡大は「天災」だったと主張。そして自国の対応について、「犠牲を払って他国へのまん延を防ぎ、国際社会のために貴重な時間を勝ち取った」と自賛したのです。
さらに習近平主席は12日、国連グテレス事務総長との電話会談し、「中国人民の努力で世界各国の感染予防・抑制のために貴重な時間を勝ち取り、重要な貢献をした」と強調しています。
中国の初期対応の遅れは明らかで、弁明はできません。
武漢封鎖後の対応は独裁体制であるが故にできたものであり、人権無視の強硬策でした。それを民主主義国のモデルとすることはできません。中国の自己弁護・責任転嫁が行き過ぎれば一層の批判を内外から招くことになります。
一党独裁体制のもろさを白日のものとにさらしたのが新型コロナウイルスだったと「歴史」は審判するでしょう。