世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

台湾総統選 真の敗者は「中国」

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 今回は1月6日から12日までを振り返ります。

 この間、次のような出来事がありました。
 イラン、米軍駐留基地にミサイル攻撃し報復作戦を開始(8日)。米、イランとの全面衝突回避で軍事報復せず(8日)。韓国法務省、検察幹部32人を13日付で交代させる人事発表(8日)。英下院、EU離脱法案可決し、今月末の実現確定で混迷収束へ(9日)。台湾総統選挙投開票、蔡英文総統が再選(11日)、などです。

 今回は台湾総統選の結果を踏まえ、今後の展望を解説します。
 結果は、蔡英文総統が史上最多約817万票を獲得して圧勝しました。2008年の中国国民党の馬英九氏が獲得した約766万票を超えたのです。蔡氏が約817万票、国民党の韓国瑜氏が552万票でした。

 国民党主席、呉敦義氏は11日夜、惨敗の責任をとって辞任表明しました。
 「今回の選挙で親中の主張も封じられた。党の核となる理念がもはやない」と、党勢回復を悲観する声も党内で上がっています。

 圧勝の背景は「中国」です。
 蔡英文政権は、2018年末から昨年の年初にかけて危機的状況にあったといってもいいでしょう。18年11月の統一地方選での民進党は惨敗しました。中台関係を改善して経済を振興すると主張した国民党に負けたのです。
 さらに中国の攻勢によって、台湾との「断交ドミノ」が続き、政権はダメージを受けました。そして継続的な軍事圧力を受け続けました。

 そのような情勢下で、昨年1月1日に習近平国家主席が「一国二制度」による台湾統一に言及したのです。習主席の演説は「一国二制度は国家統一を実現する最良の方法だ」と踏み込んだものでした。蔡氏は、その提言を強く拒否しました。支持の声も上がりましたが、不安と懸念も広がりました。

 しかし、昨年の夏以降、状況は一変します。香港で「逃亡犯条例の改正」を巡って反中デモが激化したのです。台湾世論に対中警戒感が広まるにつれて支持率を回復させていきました。さらに、米中貿易戦争の影響を回避するために台湾人起業家の中国からの投資引き上げの動きが始まり、その支援策を提示、実行することによって、内政においても支持基盤が広がりました。

 香港紙、蘋果日報(ひんかにっぽう)は11日の紙面で、「香港の若者たちは自らの血と涙でもって、一国二制度が信用できないことを示してくれた」と選挙集会で語った蔡氏の感謝の言葉を紹介しています。そして香港民主化運動「雨傘運動」の元リーダー黄之鋒氏は「今日の台湾こそ明日の香港だ」と語り、台湾のように直接選挙で香港のリーダーを選ぶようにする決意を述べました。

 中国の習近平指導部は苦しい立場に追い込まれました。台湾の有権者が中国による統一の歩みを拒絶したからです。統一が進まない状況に、中国では強硬論も頭をもたげています。

 昨年末、北京で開かれたシンポジウムで王洪光南京軍区副司令官は、「台湾の80~90%が独立勢力だ。平和統一の窓はすでに閉ざれた」と武力行使を提言しました。
 蔡氏の勝利を楽観視できません。