2020.01.07 12:00
世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~
米、イラン司令官殺害の波紋
渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)
今回は、昨年12月23日から今年1月5日までを振り返ります。
この間、次のような出来事がありました。
朝鮮労働党中央委員会総会開催(2019年12月28日から31日まで)。カルロス・ゴーン氏レバノンへ逃亡(31日)。韓国検察、曺前法相を在宅起訴(31日)。朝鮮中央通信、金正恩委員長が「新たな戦略兵器」への言及を報道(2020年1月1日)。ソレイマニ・イラン革命防衛隊・精鋭部隊司令官、米軍の攻撃で死亡(3日)、などです。
米国とイランの問題を取り上げます。
1月2日(イラン時間では3日)、米国政府はイラン革命防衛隊・特殊部隊のソレイマニ司令官を空爆で殺害したと発表しました。イランの最高指導者ハメネイ師は米国への報復を予告しています。
米国防総省は同日、空爆の理由として、ソレイマニ司令官が「イラクや周辺地域で米外交官や米兵を狙った攻撃を計画していた」と説明しました。
「イランの今後の攻撃を抑止することが目的で、海外展開する人員を守るための自衛措置だった」というのです。
経緯を確認しておきます。
昨年12月27日、イラク北部、キルクーク近くの米軍基地が30発以上のロケット弾攻撃を受けて複数の米民間人が死傷しました。
米国は対抗措置として12月29日、イスラム教シーア派武装組織「神の党旅団(カタイブ・ヒズボラ)」のイラクとシリアの拠点を空爆しました。その結果、70人の戦闘員らが死傷しました。米政府は、カタイブ・ヒズボラを動かしていたのはソレイマニ司令官であるとみていました。
さらに12月31日、今度は在イラク米大使館がデモ隊によって襲撃されました。大使館の敷地内に群衆が乱入、米軍と衝突する事態となり、抗議行動は1月1日も続いたのです。
国防総省は、大使館襲撃はソレイマニ司令官の承認を得てのものだったとしています。
トランプ大統領は同日、ツイッターで、基地に対する攻撃と大使館襲撃についていずれもイランに責任があると批判し、「イランは大きな代償を払うことになる。これは警告ではなく脅迫だ」と書き込んでいたのです。
メディアの評価は分かれています。
1月4日付のニューヨーク・タイムズ紙は「真の問題は、正当化されるかではなく賢明だったかだ」と論じ、トランプ政権の判断を批判する社説を掲載。
一方、ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、敵将を標的とした攻撃の正当性を主張し、これは米軍に対する攻撃阻止のための自衛行動であり、これまでの多数の米国人殺害に対する「裁きが行われた」と評価しています。
イランによる報復の可能は高まっています。
その手段は、海上交通の要衝の封鎖、国境を越えてのサイバー攻撃まで考えられます。
日本にとっても深刻です。安倍首相は1月4日、情勢が許せば中東への訪問を検討するとの見解を明らかにしました。
米国、イラン両国に信頼されている日本への期待が高まっています。