2019.12.20 22:00
愛の知恵袋 96
ほどよい距離感
松本 雄司(家庭問題トータルカウンセラー)
ある妻の怒り
「彼が何を考えているのか、理解できません!」
結婚して3年というその若い夫人は、戸惑いと怒りを隠せないようでした。
話を聞くと、彼女の夫は会社員で営業の仕事をしているようです。彼とは知人の紹介で知り合い、1年ほど交際して、いい人だと思ったので結婚したそうです。
しかし、家庭を出発してみると、彼は毎晩帰りが遅いのです。帰宅しても「仕事が…」とか言いながら、妻と過ごす時間をあまりとろうとしてくれません。
ある日、彼女は「付き合いなんかほどほどにして、もっと早く帰ってちょうだい!」と強く要求しました。すると、彼は翌日から早く帰ってくるようになったそうです。
それからは毎日、夫と一緒に夕食をとり、おしゃべりをし、後片付けをしたらまた一緒にテレビを見る。そして、休日もできる限り一緒に行動するように仕向けました。
そうすれば、二人の仲は一挙に近くなるだろうと思ったのです。
しかし、日が経つにつれて、彼は不機嫌になっていきました。やがて、口げんかが多くなり、ある晩の大喧嘩がきっかけで、夫はベッドを別室に移してしまいました。それ以来、夫は食事の時以外はほとんど口を利かず、なにかと理由をつけては彼女を避けるようになってしまったというのです。
「あんなに、『君が大切だ。君を幸せにしてあげたい』なんて言ってたくせに、何ですか、この冷たい仕打ちは! 先生、彼は人間が変わってしまったんでしょうか?」
「ふーん、そうですねえ…。でも、彼の人間性が変わってしまったと決めつけるのはまだ早いと思いますよ。“夫婦の距離感”を誤ったのかもしれませんね」
「え…、“距離感”…て、どういうことですか?」
「つまり、まだ心が通じあっていない者が接近しすぎると、ストレスになるんです」
物事には、“ほどよい距離”というものがある
物事には全て“適切な距離”というものがあります。相手との社会的位置関係や、互いの心の距離に応じて、適切な距離をとったほうがうまくいくのです。
その感覚が分からないと、相手との関係を損なうことがあります。
例えば、遠慮して距離を置きすぎると、「友達だと思っていたのに、挨拶の一言もないのか」などと誤解されることがあります。
反対に、相手は望んでいないのに、自分なりの思いだけで執拗に近づきすぎると迷惑がられます。いわゆる“ストーカー”はこの典型例でしょう。
このように、相手との社会的、精神的距離に応じた“ほどよい距離”を保つほうが、相手と良い関係を継続することができます。これは特に、夫婦、親子の関係にも言えますが、職場での人間関係でも、親戚や近所とのお付き合いでも同じことが言えます。
二つの距離を適度に調節する
“距離”には、二つあります。一つは、時間的距離。もう一つは、空間的距離です。
“時間的距離”というのは、相手と会う頻度や一緒にいる時間の長さのことです。夫婦関係が冷めている時は、焦っていつも一緒にいようとすればするほど、相手にはストレスを与えることになり、逆効果になります。
そんなときには適度の“間(ま)”を置くのです。喧嘩ばかりしていた夫婦が、夫の単身赴任で月に一度だけ会うような期間があったお蔭で、また、うまくいくようになったというようなケースはよくあります。
もう一つの“空間的距離”というのは、生活の中での具体的な“体の距離”のことです。夫婦が情的に葛藤している時は、無理にそばに寄ったり、スキンシップをしようとすると、相手から嫌がられます。そういう場合は、少し距離を置いて自由にさせてあげましょう。かといって、放っておくのではありません。時々、笑顔で声をかけ、それとなく親切にしてあげるとよいでしょう。
たまに、相手の気を引こうとしたり、思い知らせてやろうという動機で、実家に帰ったり、家を出て別居してしまう人がありますが、それが裏目に出て、一気に破局の方向に進んでしまう場合も少なくありません。これは“離れすぎ”なのです。
目指すは、ノンストレスの仲良し夫婦!
夫婦が精神的に一つになれていない時は、相手がストレスを感じない程度の適当な時間的距離と空間的距離を置いてみましょう。そのうえで、生活の中で相手に親切にしてあげるように心がけ、だんだんと心の距離を縮めていく努力をしましょう。
そして、二人の心の距離が近くなったら、一緒にいる時間を増やし、スキンシップなどもして体の距離も縮めていくのです。
夫婦がずっと距離を置いたままで人生を終わったのでは、幸せとは言えません。
“幸せは一つになれた時に感じるもの”ですから、私達には目標が必要です。
失敗を教訓にしながら理想の夫婦を目指しましょう。毎日一緒にいてもストレスがなく、会話が弾み、心から楽しいと思えるような仲良し夫婦が目標です。