2019.12.02 17:00
コラム・週刊Blessed Life 95
豊かな世界とは
新海 一朗(コラムニスト)
現在の世界を「豊かな世界」と呼ぶことができない大きな理由は、お金と物があるところにはあり余るほどあり、ないところにはお金も物もないという状態が世界に広がっているということを見れば、明らかです。
いわゆる、「格差」という状態があまりにもひどい現実として世界を覆っていること、言い換えれば、「平準化社会」を徹底的に拒絶する仕組みがどこかで働いているということです。
それはどこにあるのでしょうか。
ソ連を中心とする共産主義の実験は失敗に終わり、平等な社会は実現されませんでした。共産主義を標榜する中国は、共産党指導層と一般人民の間に大変な格差が生まれている状況があり、そのような中国の現実は、共産主義の主張とは全く相いれません。そもそも、共産主義は理想を語りますが、実際の共産主義社会は矛盾だらけで全く信用できません。
資本主義社会は、基本的に平等な社会を掲げていませんから、当然、豊かな者と貧しき者が発生します。現在の資本主義社会を「健全」とは呼べない理由は、格差があまりにも大きくなっていて、豊かな多くの中間層が貧しい低所得者層に転落しているからです。
米国のトランプ政権の誕生の背景には、貧困層に落ちた怒れる中間層が圧倒的にトランプを支持したからであるといわれます。米国の構図は、圧倒的な貧困層、わずかな中間層、さらにほんの一握りの富裕層という歪んだ構図となり、豊かな時代の「数多い中間層」がどこかへ消えてしまった(貧困層へ落ちた)のです。
経済的な平準化社会が実現された社会が、「共生共栄共義主義」と呼ばれる社会の中にイメージとしてあるのであれば、そのイメージを明確にする必要があります。それは現在のいびつな資本主義社会が理想的な姿になった時の姿であると見ることができるでしょう。
行き過ぎた「株主資本主義」の見直し、「格差是正のための富裕層への増税」(コロンビア大のスティグリッツ、ニューヨーク市立大のクルーグマン)などが実施されれば、それは「公益資本主義」になるはずです。①社中全体(株主、社員、取引先、地域など)への分配、②中長期的な投資、③弛(たゆ)まない起業家精神の持続などが鍵となります。
もう一つは、グローバリズムの限界です。
グローバリズムの結果は、格差の拡大を生み、世界の最も裕福な8人の資産が世界人口の半分(38億人)を占める貧しい人々の資産額に等しいといったデータや、340億円の従業員給与を削減して200億円の役員ボーナスを図ったという話、株価対策のための人員削減など、罪多くして功少なしのグローバリズムです。
グローバリズムの経済において、問題になるのは、米国型の資本主義であり、また、中国型の「国家資本主義(開発独裁型の資本主義)」ですが、大きくいえば、英米型の「金融資本主義」が深刻な問題を抱えているということになります。
また、ベンチャーが廃れ、M&A(企業の合併や買収の総称)が横行している現実においては、ビジネススクールが教える内容といえば、「株主資本主義」を至上主義とする教育ばかりです。
こういうことでは、健全な資本主義が行われるとは到底考えることもできませんし、やがて、行き詰ることは目に見えています。
共生共栄共義主義の理想経済の姿を探し求めなければなりません。