夫婦愛を育む 86
さらば プライド

ナビゲーター:橘 幸世

 幸福な人ほど健康で長生きする、というデータがあります。
 10月3日に放送されたNHK番組「所さん、大変ですよ!」では、「秋の健康長寿スペシャル」と銘打って、楽しく元気に生きる高齢者を紹介していました。

 一番驚いたのが、市区町村別平均寿命ランキングの男性部門トップ。女性部門同様沖縄だろうと誰もが思いましたが、なんと横浜市青葉区が、83.3歳で全国平均の80.8歳を大きく上回り、男性長寿日本一でした。

 その理由を探るべく番組スタッフが当地を取材する中で、退職した男性だけでつくるコーラスグループに出合いました。

 平均年齢77歳という男性シニア限定のこのグループでは、さまざまな健康維持の工夫がなされています。現役時代の生活習慣を崩さないようにと、練習開始は月曜朝9時半。
 取材を受けた男性は、「歌うこと自体が体にいいし、皆で歌うのが楽しい。やる事がなくて家にばかりいると妻に煙たがれる(それもかわいそうですが)と聞くが、自分は“出たきり老人”となって妻から喜ばれている」と笑います。

 とりわけ私が感嘆したのが、グループのオリジナル曲「見栄よ さらば」。

 肩書よ さらばじゃ♪
 名声よ さらばじゃ♪
 プライドよ さらばじゃ♪

 と、元企業戦士たちが振りを加えて歌います。

 これらを口にすることで、現役時代と今の立場の違いを認識し、より前向きに生きられるというのです。

 ついでにもう一つ紹介すると、「ダンディズム」という歌では、

 俺たちはシニアといわれて久しいジジィたち♪

 と(やや自虐的に?)歌っています。

 男性にとっての肩書やプライドの重さを考えると、あっぱれと言いたくなります。メンツが邪魔して素直になれず、人間関係を厄介にしてしまうことがままあるからです。

 こんなふうに、長年頑張って手にした実績や地位へのこだわりを捨てて、今この時のありようを受け入れることができたら、楽だろうなと思いました。

 振り返れば私の母も、人生その時その時の状況を受け入れて生きてきたように思います。

 母が嫁いだ時わが家は8~10人の大所帯。父に先立たれ、祖父母を送り、子供たちは独立。兄夫婦が近くにいるとはいえ、最後は一人暮らしでした。それでも元気なうちは他の独居老人の所にお弁当を届けるなどのボランティアをしていました。過去を振り返って嘆くこともせず(私の知る限り)、善く生きた母だと改めて敬服します。

 わが人生も、若い頃は想像もしなかったいろいろな事がありますが、悔いず、比べず、心配せず(これが一番難しい?)、今与えられているものに感謝して日々を送れたらと思います。