夫婦愛を育む 80
本音を言わない

ナビゲーター:橘 幸世

 「空気を読む」などという言葉はいつ頃から使われるようになったのでしょうか。
 周りの雰囲気に合わせて言葉を選び行動を取る。一頃はそれができないと「KY」(K=「空気」、Y=「読めない」で、「空気が読めない」または「空気を読め」という意味)と否定されたものでした。

 もちろん、他者への配慮は大切ですが、合わせることばかりに疲れて、一人でいることを好む若者たちも珍しくありません。ずっと周りに気を使い続けた結果、自分の本心がよく分からなくなっている人もいるでしょう。嫌われることを恐れて本音を出せないのは、つらいことです。

 数年前ある二世リーダーが、礼拝の説教でこう言いました。
 「二世は皆、本音を言いませんよ」
 その断言に驚きましたが、彼はその理由としてこう続けました。
 「二世は親が十分苦労しているのを見ているから、心配をかけまいと本音を親に言わないのです。皆善い子だから」

 その“いい子”たちも、そのまま行けば当然限界が来ます。
 幼いうちから神様や真の父母様、霊界、統一原理を教えられて育ってきた彼らは「かくあるべき」がしっかり心に刻まれています。

 けれど、現実の心は成長途上にあり、その貴い観念についていきません。怒ったり、悔しかったり、反発したり、うらやんだりします。それら“いけない思い”をしまっておけば、本人がしんどいだけでなく、心の成長の妨げにもなるかもしれません。
 早いうちに安心して本音が言える環境やタイミングがあれば幸いですが、ネガティブなことを口にするのは良くないという価値観の中で、成人し、社会人になる子もいるでしょう。

 「何でもいいから言ってごらん」と促されても、その一言を発するには勇気が要るかもしれません。“いけない思い”を持っている自分は、本当は“ダメな子”と認識しているからです。
 実際は、あの二世リーダーが言ったように、“善い子”なのですが…。

 二世に限らず、ネガティブなことも含めた本音が安心して言える環境があればと思います。不平不満や悪口を吐き出し合う場ではなく、「ああ、そんなふうに思うんだね」と評価無しにそのまま受け止め合える場。本音を出して受け止めてもらってこそ、前進できるのです。

 「妻が幸福の原則を実践すると、夫がそれまで封印していた本音が飛び出す時がある」と講座でお話ししていますが、夫は話しても大丈夫と感じたから吐き出します。そしてそれを妻が全部受け止めると、夫婦関係はより近しくなり愛が一層育まれます。
 夫婦以外の人間関係にも、同様のことがあるのではないでしょうか。