夫婦愛を育む 79
心配だけれど、何も言わない

ナビゲーター:橘 幸世

 親であれば誰でも子供のことで心配します。何事も起こらないうちから、“転ばぬ先の杖”的に先回りしてあれこれ言う母親はどこにでもいますし、具体的な心配事があれば、「ああしたら?」「これはどう?」と次々と助言を打ち出す親が多数派かもしれません。

 先日あるテレビ番組で、20年間摂食障害に苦しんでいたアメリカ人女性を取り上げていました。
 私は、摂食障害は太ることに極端な恐怖を抱いた若い女性がなるものと理解していたので、紹介された彼女が結婚し子供もいて仕事もしていることに驚きました。

 きっかけ自体は彼女も同じで、10代の頃痩せたい一心から「食べ物は敵」と思うようになったことでした。そして病的なほどに痩せていきます。
 誰の助言もはねつけてきた彼女に、日本の友人が「食べること」ではなく「料理すること」を勧めたことから、彼女の症状は快方に向かいます。
 自分が作ったものを大切に思う気持ちが湧くとともに(食べずに残すのはもったいない)、実際にみそ汁で体調が改善したことから、食べることを楽しめるようになったのです。

 こうして摂食障害を克服した彼女は、久しぶりに里帰りします。70代になった両親は、料理をし、さらにおいしそうに食べる娘の姿を見て涙します。

 そんな中、再会した幼なじみから、彼女は驚きの事実を打ち明けられます。

 高校時代、食べることを拒否した娘に、母親は何も言いませんでした。何も言わないで見守ってくれていたことがありがたかったと言う彼女は、そんな母を強い人だと思っていました。

 「それは違うわよ!」と幼なじみが言います。
 実は母親は陰で、娘の友達に毎日こっそり聞いていたのです。「あの子は今日学校で何か食べてた?」と。
 20年以上たって初めて知った真実でした。

 「食べた?」「食べて」と娘に言えばプレッシャーになるからと、黙って見守るしかなかったものの、心配でたまらなかった母親は、娘の友人に尋ねずにはいられなかったのです。
 どれほど胸つぶれる思いだったか分かりません。すごい親です。

 ふと、以前に読んだダニエル・ゴットリーブ氏の言葉を思い出しました。
 リンカーン大学の卒業式に招かれて語ったメッセージで、氏は卒業生の親にこう言いました。

 「あなた方の仕事は、ごほうび(立派に育った自分の子ども)を楽しみ、子どもの失敗を許し、子どもの立ち直る力を信じ、助言を求められない限り、けっして余計な口出しをしないことです」(学生たちからは拍手喝采が起こりました)

 もちろん、ケースによってはこちらから声を掛けた方がいいこともあるでしょう。が、この基本姿勢、(難しいですが)心に留めておきたいと思います。