お父さんのまなざし 6
娘が自ら勝ち取った、心の新記録

お父さんのまなざし 6
心の新記録

　男手ひとつで3人の娘を育てるお父さんの、愛溢れる子育てコラムを毎週土曜日配信（予定）でお届けします。
　「子どもを見守ろう……」そう決心したお父さんのまなざしは、家でも学校でも、真っすぐ子供たちに注がれています。

コラムニスト 徳永 誠

　夏、この季節になると、わが家にはにわかに暗雲が立ち込める。

　「プール授業」。それが、父（私）と娘の苦悩の原因である。
　三女は、幼少期の最初のプール体験でひどい苦痛を味わった。だから、水が怖い。いわゆる“トラウマ”というやつだ。

　小四の夏を迎えた。今年こそは、克服しなければならない。父と娘の決意は無言の対話の中で一致していた。
　六月に入った。もうすぐ「プール授業」が始まる。父は娘を公共施設のプールに誘った。
　娘は拒んだ。しかし、自らの限界に挑戦しなければならないことを娘は自覚していた。
　娘は、初めて見る父の泳ぎに、「パパって、泳げるんだね」と新鮮な驚き…。しかし、この日、娘が水の中に自ら潜ることはなかった。

　数日後、再チャレンジ…。
　「よ～し、パパがどれくらい潜っていられるか数えてね」。父は何度も潜水しては、娘にカウントさせた。
　「じゃあ、やってみよう！」。父は娘に促した。
　最初は、顔の表面を濡らすだけ…。思い切って、耳まで入れてみる。頭まで浸かって、三秒達成、五秒達成、十秒達成…、何度も自分から水の中へ。

　帰る予定の時刻となった。が、娘はプールから上がろうとしない。娘のチャレンジ精神にスイッチが入ったようだ。
　「待って、もう一回！」と、娘は自ら潜水を繰り返した。…十八秒。新記録である。
　「今度はいつプールに来るの？」。そう言いながら、娘は父と明るい笑顔で帰宅した。

　そしてプール通い三日目。その日は、雨が強く降っていた。父は仕事で遅くなってしまい、心の中では“きょうはやめにしよう”と考えていた。父が帰宅すると、雨の中、娘は傘をさしながら笑顔いっぱいで待っていた。

　夕食のスケジュールを変更して、父と娘はさっそうとプールへ。娘は、記録を更新し続けた。頭をつけて水中を二メートル、三メートル…、そしてこの日は、バタ足で五メートルを泳いだ。新記録である。

　娘の笑顔が増えた。泳ぎそのものはこれからだが、娘はまた一つ、心の新記録を自ら勝ち取ったのだ。
　そして、父もまた、「お父さんのまなざし」とともに、娘の勝利を心の子育てノートに書き記した。

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　次回もお楽しみに！