2019.08.02 22:00
愛の知恵袋 76
親ごころ婚活のすすめ
松本 雄司(家庭問題トータルカウンセラー)
結婚しない子を持つ親の悩み
「うちの娘はもう36歳になるのですが、いまだに結婚していません。『結婚する気はないの?』と聞くと、『する気はあるけど、適当な相手がいない』というのです。もっとも、20代の終わりごろ、一度お付き合いをした人がいるんですが、そのころは仕事に夢中で、資格を取るための勉強を優先してしまい、結局、その男性は離れていったそうです。そうして、はっと気が付くと32歳。『やはり、結婚を…』と思ったらしいんですが、職場に若い男性は少ないし、合コンなどに積極的に動けるタイプでもないので、いまだに、これという相手はいません。このままでは…安心して死ねません」
先日、60代のある母親から受けた身につまされる相談です。同じような悩みを、結婚できない子を持つ多くの親御さんたちから聞くようになりました。
“代理婚活”に立ち上がった親たち
「もう、待ってはいられない」という思いから、子の伴侶探しに立ち上がった父母たちが、今、全国で“代理婚活”を始めています。さまざまな理由で、本人まかせでは相手を見つけることが難しいという事情の親御さんたちが、婚活サークルや結婚相談所の開催する“親の代理お見合い交歓会”などに参加して、子にふさわしい相手を真剣に探しています。いわゆる、親による代理婚活…“親コン”です。
親がわが子の写真と身上書をもって参加し、これだと思う相手の親と身上書を交換し、家に帰って子に見せます。本人が「会ってみたい」と言えば、当人たちのお見合いに進展するわけです。双方の要望が一致するのは簡単ではありませんが、それでも、着実に成果は増えているようです。
「結婚は本人任せ」で、本当によいのか?
江戸時代はもちろん、明治・大正、そして昭和も終戦まで、長い間、子の結婚に責任を持ってきたのは「親」でした。親が子の幸せを願い、息子や娘の長所・短所を十分に勘案して、それにふさわしい相手はいないか…と探しました。
親戚や近所の人や職場の関係者にも、「いい人がいたら…ぜひ」と頼みながら熱心に探したのです。そして、そのようなニーズに応えるために、どの地方にも、お見合いを世話してくれる仲人…“世話やきさん”がいました。その人たちが、上手に若い男女の縁を結んでくれたおかげで、どんな事情の若者でも不思議と結婚にたどり着けたのです。つまり、社会全体が関心をもって若い人を結婚に導いてあげるシステムがあったのです。
大正時代になると、「お家のため」とか政略結婚などの封建的な家族制度の負の部分に対する反発が起こり、折しも沸き起こった“大正デモクラシー”の高潮によって、「親に決めてもらう結婚よりも、本人の意思を優先する“見合い結婚”のほうがモダンだ」という風潮が高まり、それからは見合い結婚が主流となってきました。
恋愛結婚の光と影
昭和20年の終戦と共に、男女平等、自由主義、個人主義の思想が普及し、「見合い結婚も古い、恋愛結婚が最高」という風潮になりました。具体的に、恋愛結婚の数が見合い結婚の数を超えたのは、1965年前後のことです。それ以後は、「恋愛結婚が常識」と言われる時代になり、「結婚は本人の自由、余計なお節介をしなくてよい」という雰囲気と、社会の無縁化の影響で、仲人さんが姿を消し、親戚も、会社の先輩も、地域の人も、そして、親さえもが手を引いてしまいました。
あれから50年、理想と思われていた恋愛結婚方式も、離婚増、晩婚化、非婚化といった思わぬ副作用を併発し、超少子高齢化の対策に国家が頭を悩ます時代を招いてしまいました。今や、新たな結婚の在り方が模索されています。
第一の問題は、恋愛結婚の増加と比例して離婚数が増加したことです。最良の結婚であるはずなのに、結婚後うまくいかない夫婦が増え続けました。ちなみに、2012年度は、婚姻件数が66万8788組、離婚件数は23万5394組でした。実は、恋愛結婚のほうが見合い結婚より離婚率が高く、全国仲人連合会等の追跡調査によると、見合い結婚の離婚率10%に対して、恋愛結婚は40%と言われます。
親の代理婚活は時代の要請
第二の問題は、すべてを「本人に任せよ」という風潮によって、周囲の者が手を引いてしまった結果、結婚できない人たちが想像以上に増加していることです。
ちょうど、「就職の自由化」が、「本人が就活をしなければ仕事にありつけない社会」を作り出したように、「結婚の自由化」は、「本人が婚活をしなければ結婚にたどり着けない社会」を生み出したのです。
「親が子の婚活までするのは、究極の過保護だ」という声もありますが、そうとも言い切れません。今や家族の絆、地域の絆、人と人とのネットワークの大切さが見直されている時です。若者の結婚にも周囲の人たちが配慮してあげても良いと思います。
本人の意思を尊重しながら、良い人を探してあげる“助け手”が必要なのです。「独身の子を放っておけぬ」と、老骨に鞭打って“親コン”に立ち上がった親御さんたち、どうぞ、信念をもってわが子の花嫁、花婿を探してあげてください。歴史的に見ても、世界的に見ても、本来は、「結婚までは親の責任」というのが、むしろ“世界の良識”であると言えるのですから。