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お父さんのまなざし 3
「ママここにいるよ」

(『グラフ新天地』454号[2006年4月]より)

 男手ひとつで3人の娘を育てるお父さんの、愛溢れる子育てコラムを毎週土曜日配信(予定)でお届けします。
 「子どもを見守ろう……」そう決心したお父さんのまなざしは、家でも学校でも、真っすぐ子供たちに注がれています。

コラムニスト 徳永 誠

 当時、5歳だった三女がそう証ししてくれたのは、妻の満40歳の誕生会の場だった。

 子どもたちの“ママ”、すなわち筆者の配偶者はすでに他界しているのだが、誕生日には、この世の人もあの世の人も、必ず年の分のローソクを立てて祝うのがわが家の習わしになっている。

 この日もイチゴのたくさん載ったバースデーケーキを準備して食卓を整えた。そこに三女の一言である。
 「ママここにいるよ」

 さあ、それからが父から娘への尋問の始まり。
 「本当に見えるの? どんな姿をしているの?」
 「歩いているの? 浮いているの?」
 「話はできるの? 表情は? 笑ったり怒ったりするの?」、エトセトラ、エトセトラ……。

 いったい、いつからママの姿が見えるようになったのかと尋ねると、少々興奮気味の父の姿をよそ目に、娘はさらりと「初めから」だというではないか。妻が亡くなった当時、まだ二歳にもなっていなかった三女にとって、“死”という概念は存在していなかったに違いない。

▲筆者の娘さん(当時12歳)が描いた絵より

 その日以来、娘をつかまえては「ママは今どこにいるの? ママは今何しているの?」と、日に何度となく尋ねるのが父の日課となった。

 三女の話によれば、ママの姿は半透明の状態のようで、人も物も素通りしてしまうのだという。寝るときはパジャマ姿で、何とパパの隣に寝ているというではないか(当の本人には全くその自覚がなかったのに、である…)。

 着替えもするのだそうで、ときどきヘアスタイルも変わるのだという。
 家族が外出するときには一緒に出かけることもあるそうで、ある日、家族みんなで外食に出掛けた折、同行した妻の分の席がなく、「ママは先に帰ってしまったよ」という娘の話には、思わず苦笑してしまった。

 「どうしたらパパにも見えるようになるかなあ、ママに聞いてみて」と、父は娘に伝言を託した。
 「目を閉じたら見えるんだって」と、娘はママからのメッセージを伝えてくれた。

 小学校に上がった頃から、三女がママを見ることはなくなった。でも、家族は皆知っている。“お母さんのまなざし”もまた、いつも家族に向けられているということを。

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 次回もお楽しみに!