世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

日本の対韓輸出管理強化、その背景と理由

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 今回は、7月1日から7日までを振り返ります。

 この間、以下のような出来事がありました。
 日本政府、韓国への輸出管理強化発表(1日)。香港、若者の抗議自殺相次ぐ(3日)。参院選、公示(4日)。韓国、慰安婦財団の正式解散判明(4日)。イラン、ウラン濃縮度引き上げ発表(7日)。ギリシャ総選挙、政権交代へ(7日)、などです。

 今回は日本政府が7月1日に発表した、韓国に対する輸出管理強化について説明します。

 日韓双方のメディアが連日報道し、政治家、経済関係者などのコメントも加わり、「日韓経済戦争」が始まったかのようです。

 「実質的な禁輸措置」「対韓輸出規制の発動」「韓国人元徴用工訴訟を巡る問題で解決にむけた対応を見せない韓国への事実上の対抗措置」「自由貿易を掲げてきた日本への各国の批判が集まる懸念も」「恣意的なルール変更とも取られかねない」など、です。

 まず、今回の管理強化方針について説明してみます。2段階に分かれています。

 第1段階は、リスト品目規制です。
 7月4日から始まりました。3品目(フッ化ポリイミド、レジスト、フッ化水素)あり、主にスマートフォンのディスプレーや半導体製造に使用されますが、いずれも軍用品に使われる可能性があります。
 これまで韓国への輸出は「包括輸出許可制」という、輸出手続きを簡略化した優遇制度に従ってきました。1度許可を受ければ3年間は許可申請や審査の必要がないというものです。今後は個別に輸出許可申請と審査が必要になります。

 第2段階は、リスト品(上記の3品目)以外への管理強化です。
 日本は「ホワイト国指定」という制度を用いています。安全保障を理由とした輸出管理の仕組みで、指定を受けた国は原則3年間、個別の輸出ごとの申請は不要になるのです。米国など27カ国に与えており、韓国は2004年から入りました。今後、意見公募を経て8月中に政令によって除外することになるのです。

 日本政府の措置の「背景と理由」について、政府は「韓国との信頼関係のもとに輸出管理に取り組むことが困難になっていることに加え、韓国に関連する輸出管理を巡る不適切な事案が発生した」(世耕弘成経産相、2日)と述べています。

 「信頼関係のもとに輸出管理に取り組むことが困難になっている」理由として、この数年間、韓国が輸出管理当局同士の協議に応じていないことが挙げられています。「包括輸出許可」のために必要な協議が文在寅政権になってから一度も開かれていないのです。

 さらに、発生した「不適切な事案」とは、韓国による対北朝鮮への「制裁逃れ」ではないかと疑われる海上での「瀬取(せど)り」や北朝鮮への物資の横流しの情報があります。個別案件に関わるため公表できないのでしょう。このままでは、「包括許可」を継続していること自体が問題になりかねないのです。

 直接的な理由ではなく、背景として元徴用工問題で日韓関係の法的基盤が毀損(きそん)されていることも事実でしょう。しかしそのための「報復措置」ではないのです。あくまでも今回の措置は2003年までの基準に戻るものなのです。
 それまでの日本の対韓輸出が自由貿易の原則に背き、WTO協定違反をしているなどとの指摘を受けたことはありません。誤解に基づく論説が多過ぎます。