青少年事情と教育を考える 54
児童虐待と脳への影響

ナビゲーター:中田 孝誠

 児童虐待事件が相次いでいます。
 先月、警察庁が公表した「犯罪情勢」で、昨年(平成30年)1年間に全国の警察が虐待の疑いで児童相談所に通告した子供の数は8万104人に上りました。昨年より2割以上増えています。

 虐待の内訳は、心理的虐待が最も多く、昨年は5万7千人余りでした。次が身体的虐待で1万人余りです。

 心理的虐待には、暴言を浴びせたりする行為の他、子供の前で配偶者に暴力を振るう面前DV(ドメスティック・バイオレンス)などがあります。
 全国の警察が面前DVを心理的虐待に含め、積極的に通告するようになったことで増加しました。

 身体的虐待とは違い、心理的虐待は即座に命に関わるようなことはないかもしれません。しかし、その影響が長期にわたることが示されています。

 不適切な養育が脳に与える影響を研究している友田明美・福井大学教授によると、親から「おまえはクズだ」などの暴言を浴びせられた経験のある子供は、過度の不安感や、おびえ、泣き叫ぶなどの情緒障害、うつ、引きこもりといった症状を起こす場合があり、こうした子供たちの脳を調べると、「聴覚野」(他人の言葉を理解し、会話をするなどのコミュニケーションを司る領域)に問題が起きていたというのです。

 また、面前DVを頻繁に目にした子供はさまざまなトラウマ反応が生じやすく、知能や語彙(ごい)理解力に影響がありました。脳では「視覚野」の容量が通常の人より減少していました。

 友田教授は、子供の脳は多くの可能性を秘めていて周囲の愛情に触れながら成熟していくはずなのに、最も頼りとしている両親や養育者から虐待を受けるという強いストレスにさらされ、孤独や悲しみ、恐怖という感情を抱き続けていると、その苦しみから逃れようとするように「脳が変形していく」と述べています(以上、『子どもの脳を傷つける親たち』NHK出版新書より)。

 児童虐待は、「子供を育てる」という最も基本的な親の役割、家庭の機能を果たせなくなっているということです。それによって子供を生涯苦しめることになります。

 現在、児童相談所と警察の連携など虐待対策が議論されていますが、虐待を予防するという意味でも、親、家庭の機能を立て直すことにも力を入れるべきだと思います。