シリーズ・「宗教」を読み解く 50
ゆるしと和解をもたらす水

ナビゲーター:石丸 志信

 昨年12月のIAPD-Japanの結成式には、広島の僧侶が日頃瞑想している「滝の観音」の水を採水して持ってきていただいた。
 実は、この水には、広島の戦後70年の祈りと精誠が込められている。

 昭和20年(1945年)8月6日、広島郊外で被爆した当時26歳だった宇根利枝さんは、10年後に山登りの途中で「滝の観音」を見つけた。その時、彼女は「原爆で亡くなった人にこの水を飲ませてあげたい」と思った。そして、水を求めた息絶えた犠牲者を悼み、お詫びの気持ちから、この水を持って120カ所の慰霊碑に一杯の水を供えて回るようになった。
 その活動は黙々と続けられ半世紀に及んだ。平成24年(2012年)に宇根さんが亡くなってからも、その遺徳を継ぐかたがたがいる。この僧侶もその一人。

▲「滝の観音」の水

 昨年8月6日には、120カ所の慰霊碑にコップ一杯の水を手向ける一斉献水行事に私も参加した。12月のIAPD結成式の案内をした時、すぐさまこの水を持っていきましょうと言ってくださった。

 広島のみならず、苦難に遭遇し被害に遭った人々を潤してきた水。怨みではなくゆるしと癒やしを通して平和を生み出そうとする人々の祈りの込められたこの水。それで、IAPD-Japan結成式のセレモニーには、「滝の観音」の水を用いて「水の儀式」を行うことになった。