信仰と「哲学」16
神を「知る」ということ~「同じ」の理解度と人間の成長

神保 房雄

 「信仰と『哲学』」は、神保房雄という一人の男性が信仰を通じて「悩みの哲学」から「希望の哲学」へとたどる、人生の道のりを証しするお話です。同連載は、隔週、月曜日配信予定です。

 動物社会と人間(解剖学者、養老孟司氏は「ヒト」と表現)社会の違いは、「同じ」の理解にあると養老氏は強調し、自著『遺言。』で、「同じ」の理解は「他人の立場に立つことができる」ことにつながるとも述べています。

 養老氏は、ある米国の研究者が行った試みを紹介しています。
 その研究者は自分の子供が生まれた時に、同じ頃に生まれたチンパンジーの子を探してきて、兄弟のようにして一緒に育てました。発育を比較したのです。

 生後3年まではどう見てもチンパンジーが上だったといいます。運動能力や「何をするにも気が利いている」(『遺言。』)。しかし3歳を過ぎて、4歳から5歳になってくると、ヒトはどんどん発育が進むが、チンパンジーは停滞。身体は発育するが頭がダメなのだといいます。

 ヒトとチンパンジーを分ける、何かが現れる。認知科学者はこの問題を追求しました。
 ヒトに現れる能力とは何か、それを認知科学では「心の理論」と名付けています。

 ここで、3歳児と5歳児の違いを知ることができる「実験」を紹介しています。
 引用しましょう。

 「三歳児と五歳児に舞台を見せておく。舞台には箱Aと箱Bがある。そこへお姉さんがやってきて、箱Aに人形を入れ、箱に蓋をしていってしまう。次にお母さんが登場する。お母さんは箱Aに入っている人形を取り出し、箱Bに移してしまう。さらにBに蓋をして、舞台からいなくなる。
 次にお姉さんが舞台から再登場し、舞台を見ている三歳児、五歳児のそれぞれに研究者が質問をする。お姉さんは箱A、箱Bのどちらを開けるでしょうか。
 三歳児なら、箱Bと答える。なぜなら人形はいま箱Bに入っていることを三歳児は知っている。ところが三歳児にとっては、自分の知識がすべてなのである。それならお姉さんは人形が今入っている箱Bを開けるに決まっていると思ってしまう。お姉さんの頭の中がどうなっているか、そんなことは考えない。
 五歳児はどうか。五歳児ならお姉さんは箱Aを開けると正解する。なぜならお母さんが箱Bに人形を移したのを、お姉さんは見ていない。『お姉さんは人形が箱Bに移されたのを見ていないのだから、元の箱Aに入ったままだと思っているに違いない、ゆえに箱Aを開ける』と正解するのである」(『遺言。』56~57ページ)

 3歳児と5歳児の違い、それはお姉さんの立場に立つことができる、お姉さんと自分を「交換」できることにあるというのです。

 人間の心の成長とは、「他人の立場に立つことができる」という「同じ」の理解度の成長ということになるわけです。そしてそれが「愛」の本質といえるでしょう。(続く)