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青少年事情と教育を考える 277
人権意識を育てるのに必要な道徳教育

ナビゲーター:中田 孝誠

 今回は、子供たちの中に人権尊重の意識を育てるには道徳教育が大切であるということを取り上げたいと思います。

 法務省がまとめている「人権教育・啓発白書」の最新版(令和6年版)を見ると、人権教育について「人権尊重の精神の涵養を目的とする教育活動」だと定義しています。
 そして学校教育では、道徳教育の充実によって「誰に対しても差別や偏見を持たず、公正、公平にすることや、法や決まりを守り、自他の権利を大切にすること等」の指導を行う、と記しています(ちなみに白書の中では、子供の人権に関わる問題の具体例として、いじめや児童虐待などを取り上げています)。

 こうした人権教育と道徳教育の関係について、道徳教育が専門の島恒生・畿央大学大学院教授は次のような興味深い指摘をしています。

 島教授によると、道徳教育の目標は道徳性を養うことにありますが、道徳性とは行いや行動の根拠となる見方や感じ方、考え方など、その人の価値観や生き方のことをいいます。
 私たちは、日々、この道徳性という自分の原理に基づいて行動しているというわけです。

 文部科学省の「人権教育の指導方法等の在り方について」では、人権教育で育てる資質や能力として「知識的側面」「価値的・態度的側面」「技術的側面」がありますが、道徳教育で養う「価値的・態度的側面」があることで、相手は自分にない良さを持っているとして相手のことを尊重し、互いに理解し合おうとする考え方、「違いは豊かさ」という価値観を深めることができると島教授は述べています。

 そして、「『知識的側面』と『技能的側面』のみの人権教育…では、知識や方法は知っているが自己の生き方につながらない、…『先生に言われたから』といった他律的な人権教育となるのである。一方、『価値的・態度的側面』があることで、『人権を尊重する主体を育てる人権教育』が可能となる」というわけです(『小学道徳 生きる力』日本文教出版)。

 人権を尊重する社会をつくるために、法律を整備すべきといった議論がよくあります。
 ただ、その前提として道徳性(あるいは“良心”と呼んでもいいでしょう)を育む道徳教育の基礎があってこそ、本当の意味で人権を尊重する意識を育てることができるということなのです。