家庭力アップ講座 13
あなただけの時間を持つ

(APTF『真の家庭』222号[4月]より)

家庭教育アドバイザー 多田 聡夫

子供一人ひとりに関心を

 子供が何人いたとしても、親は一人ひとりに対して、個人的な関心を持つことが大切になります。子供は、一人ひとり特別な存在なのです。十把一絡(じっぱひとから)げで子供をひとまとめにして見つめるだけでは、親の愛情が子供に届かないことが多いのです。また、子供は一人ひとり真実な存在なのです。私の子供として生まれてきたわけですから、生まれたままを真実な姿として受け入れましょう。そして、子供の個性を愛していくようにしましょう。何事も行動がおっとりとしている性格、てきぱきとこなしていく性格、静かな性格、話好きな性格など個性豊かな子供たちです。問題は、たいていの子供たちは自分が親から、特別な存在と認識されていないと感じていることにあります。それは、親の愛情が子供に届いていないわけです。親は子供を愛しているわけですが、その愛情が、子供に届いているかどうかを確認していないことが多いのです。

 子供たちに完全な愛を与え、考えや気持ちをわかってあげて、彼らの前向きな経験を分かち合うためには、次のようなことを繰り返していくことで、時間が経つにつれて健全で信じあえる関係を作り上げていくことができるようになります。

 ここで、一人ひとりに関心を持つことの例を紹介します。

 『私たち夫婦が子供たちと一緒に分かち合っている家族の伝統の一つは、それぞれの子供たちと個々の時間を持つことです。たとえば、最初の土曜日は、長男と一緒に昼食デート、2週目の土曜日は、2番目の息子とのデートなどです。

 デートをする日は、その前に親子で一緒に計画しておいたことを行います。たとえば長男とのデートの日には、ファミレスに行き、一番好きなハンバーグを食べる。2番目の息子の場合は、スーパーマーケットに行って、やはりその息子が一番好きな野球で使うバットを買ってマックに行きました。私たち夫婦は、土曜日を”それぞれの子供たちと一緒に過ごすデートの時間”としてあらかじめあけておきます。

 カレンダーを見せて、どの日が誰とのデートの日なのかを知らせてあげ、それぞれのデートの主人公たちと一緒に、その日に何をするか計画を立てます。デート時間内の意思決定もまた子供たちの役割です』

 自分が、愛されることが分かっていれば、兄弟が親から愛されることを受け入れることが出来ます。兄弟げんかが絶えない理由は、子供一人ひとりと親の特別な愛情が、結ばれていないからなのです。子供たちと一対一の時間をしっかりと持つようにすると、兄弟げんかは次第に収まっていくようになります。

 ある家庭で、先述のように子供一人ひとりを愛する日をカレンダーに印をつけて、1か月の間、関心を持ち続けました。すると「お母さん、僕が愛される日が後3日で来るね、準備は大丈夫なの」と聞いてきました。1か月が終わってみると、子供たちは、お父さんとお母さんが愛される日が決まっていないことに気が付き、その日を決めようということになりました。家族から愛されることが明確になっていると子供たちは、他の人が愛されることを受け入れる余裕が出てくるのです。

 自立の心、思いやりの心、感謝の心、そうした心を持つ子供に育つためには、親は子供自身が、自分の問題を解決するための環境を整えてあげることが必要です。この環境というのが、子供の気持ちに共感してあげることなのです。そのためには子供が、どんな気持ちでいるのか、何を考えているのかをよく聞いてあげなければなりません。子供の気持ちに共感してあげることにより、子供は、自身の責任で問題を解決していくようになるのです。

愛情の伝え方

(1)共感的聞き方
 共感的な聞き方は、以下のような段階があります。

1.子供が話したことを繰り返してあげて、聞いてあげること。
2.聞いた話を本人に理解できるように言い換えて話してあげること。
3.子供の考えていることを心で汲み取ってあげること。

 以上の3段階です。子供の心を汲み取って聞くことが一番、愛情が届く聞き方です。

 一つの例題を紹介します。22歳の娘を持つ母親のことです。普段は、ほとんど話をしないのですが、親子で夕食をして、その後、娘のほうから母親に話しかけてきました。めずらしく、娘が会社でのことをいろいろ話してくるのです。母親は、これはよく聞かなくてはと思い、しばらく聞いていたのですが、途中でいろいろ気づくことがあり、ついアドバイスをと思い、話してしまったのです。すると娘は、黙ってしまったというのです。母親は、しまったと思ったそうですが、娘は寂しそうな顔をして、「ただお母さんに聞いてほしかっただけだから」と言いました。あの時、最後まで、娘の話を聞いていればよかった、と反省したというのです。話を聞いて子供の気持ちに共感していくことが、親の愛が子供に届くときなのです。共感的に話を聞くことは、親と子供の心が一心になるための大切なことなのです。

 ここで、「共感的に理解する」ことの効果をまとめてみましょう。

1.親の思いやりが子供に伝わり、愛情を感じ心が満たされる。
2.心が正常に働き、自立の心が育ち、思いやりの心が芽生える。
3.自己を見つめる心のゆとりが生まれる。
4.親に対する信頼感が一段と深まり、自分の抱えている問題に気づく。
5.自分で解決しようとする意欲が起きる。
6.自分で解決するための能力が身に付く。

 何度も何度も、「共感的に話を聞く」ための練習をしてみてください。共感的聞き方が必ず、自分のものとなることでしょう。