家庭力アップ講座 12
授受作用について

(APTF『真の家庭』220号[2月]より)

家庭教育アドバイザー 多田 聡夫

(1)理解してから理解される

 授受作用の原則は、「あらゆる存在を作っている主体と対象とが、万有原力により、相対基準を造成して、よく授けよく受ければ、ここにおいて、その存在のための全ての力、すなわち生存と繁殖と作用などのための力を発生するのである。このような過程を通して、力を発生せしめる作用のことを授受作用という」(『原理講論』)です。

 「万有原力」とは、創造目的・理想家庭をなそうとする神様の力です。また、「相対基準を造成」とは、創造目的を中心に、相手の気持ちを共感できることです。目的や心情や事情を共感することができるようになれば相対基準を造成したことになります。「授け受ける」というのは、「嬉しいよね」とか「悲しいよね」とか「辛いよね」などとお互いの気持ちを共感しながら理解し、心が分かり合えるようになることです。共感的聞き方や積極的聞き方を通して相手の気持ちや考えを理解したいと思いつつ向き合い、また親の考えや気持ちを子供に伝えるのです。もう一つは、親も子もお互いに説明責任を果たすことだというのです。何を考えどんなことを思っているのか、親子両方が意外と説明責任を果たしていません。共感的な聞き方をすることと、説明責任を果たすこと、これが授受作用です。そのように相手を理解してから、初めて、私自身が相手に理解してもらえるようになるのです。そして互いに、家族として絆を結びあえるようになるのです。こうして拡大、繁殖し、いろんな活動が出来るようになります。

(2)物の見方は人それぞれ

 人間は、物の見方は人それぞれです。私たちは、自分のめがねで、周りの世界を見てしまうことが多いのではないでしょうか。

 一度、お互いのめがねを交換して見てみましょう。どうでしょうか。相手のめがねで見てみるとずいぶん、違うものです。母親と幼稚園の子供と手をつないで歩きながら、多くの観客の中で花火を見ようとしたときに、母親は花火を見ることが出来るのですが、幼稚園の子供には背が低すぎて見ることができません。母親が、子供と同じ目線に立って見てみれば、人のお尻しか見えないことが分かります。子供の見る目線で母親は、見てみることが必要なのです。親は子供に対する説明不足が多いのです。親は、子供に指示をしたり理解してくれることを期待はしますが、なぜそう願うのかを説明しないことが多いのです。

■親の感想を紹介します。

 「自分の話を聞いてほしい。願いや愛情を受け入れてほしいと思うならば、まず、どれだけ私が相手のことを愛しているのか、ということを伝えなくてはならない。伝わらなければ問題は解決されない。自分の眼鏡をはずして相手の眼鏡をかけてみる。正しいとか間違っているとか、自分の考えをひとまず横において相手の心は何を感じているのか、そこを共感できるように努力したいと思いました」

 「どんな事も一方的な見方ではなく物の見方を変えてみること、夫婦にしてもお互いに何を期待しているのか、人の心は傷つきやすい。いろいろな事を気付かせていただきました」

(3)お互いに何を期待しているのか

 では私たちは、お互いに何を期待しているのでしょうか。多くの場合は、自分をわかってほしいとか、愛してほしいとか、自分の期待が満たされることを願うのではないでしょうか。ですから、その相手を理解しようと努力してみると、相手の心に多くの信頼残高の預け入れを出来るようになるのではないでしょうか。

 ですから、「あなたが私のことを大事に思っているとわかるまで、あなたの意見に興味はない」となるのです。信頼残高の預け入れをすることによって、徐々に「自分を大事に思っていてくれている」と相手は感じてくれるようになります。子供の気持ちを共感することで、「何が」子供心の預け入れになるのかを理解していくようになります。そして、親の愛が成熟、成長していくのではないでしょうか。

 傷つきやすい自分をさらけ出せる、支えと励ましが受けられる環境をつくることが大事です。「ここにいてもいいんだ」「ここにいる人は、私がここにいることを望んでいてくれている」「私に関心を持っていてくれている」というように、私たちは、居場所を必要としているのです。それを土台として、未来に向かって前進できるようになります。子供は、親の動機を見抜く天才なのです。親として、子供に愛が届くようにするために、子供の気持ちをしっかりと共感してあげましょう。そうすれば、今までの傷を乗り越えていけるようになるのです。

(4)マイナス的な感情との付き合い方

 私たちは、よく「イライラ」「怒り」「不満」などのような感情で相手に対応してしまうことがあります。「売り言葉に買い言葉」とよく言いますが、相手の言動に対して、つい怒ってみたり、ムカついてしまい相手に攻撃的な態度で接してしまいます。「怒り」や「攻撃的な態度」というのは、お互いに向上していける相乗的な効果を妨げてしまう大きな要因となります。

 高慢な態度というのは、誰かより、優れているという自己満足的な姿勢から生まれてきます。「自分は正しいと相手に示したい」「自分の意見を通したい」という気持ちにとらわれるのです。これでは、お互いにより良い相乗効果を生み出すことは出来ないでしょう。

 また、怒りというのは、自分自身の罪悪感の裏返しの場合もあるのです。自分自身が穏やかな心でいるならば、それほど感情的になることもないはずです。怒りの気持ちで相手と接するならば、相手のミスや弱点を指摘したりしてしまうことになるでしょう。ですから、他人のミスや弱点のせいにするのはやめるようにしてはどうでしょうか。

 マイナス的な感情とのつきあい方を考え直してみましょう。他人の行動に振り回されない自分づくりをしましょう。自分がいやな気持ちになるかどうかは自分の選択なのです。

 許せないと感じている自分と向き合うようにしてみてください。そうすれば、心の奥にある、良心の声を次第に感じ始めるようになっていくのです。そして相手を許せるようになっていくことになります。あせらずに向き合ってみてください。

 私たち親自身も、まず子供に親のことを理解して欲しいと心で望んでいることが多いようです。そして、親の言うことをよく聞いてくれる子供であって欲しいと望んでいるのです。もう一度自分の姿勢を見つめ直し、「理解してから理解される」と思っているのか、それとも「まず理解して欲しい」とだけ願っているのかをしっかりと整理してみましょう。