世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

プーチン発言、「ちゃぶ台返し」か

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 9月10日から16日までを振り返ります。

 この間、主要なものとして以下のような出来事がありました。
 トランプ米政権、ワシントンのパレスチナ総代表部(大使館に相当)を閉鎖させると発表(9月10日)。ロシア、シベリアで冷戦終焉(しゅうえん)後最大規模の軍事演習(11日)。プーチン大統領、「東方経済フォーラム」全体会合で、無条件で日ロ平和条約締結を提言(12日)。沖縄県知事選告示(13日)。朝鮮半島、南北共同連絡事務所を開設(14日)、などです。

 今回は、プーチン氏の仰天発言を取り上げます。

 12日夕、「東方経済フォーラム」全体会合の場で、安倍晋三首相のスピーチの後に、「今思いついた」「冗談ではない」などと述べながら、プーチン大統領が「無条件で、年内に日ロ平和条約を締結しよう」と提言したのです。北方領土問題の解決を事実上棚上げにする、驚くべき発言でした。安倍氏は当惑気味の苦笑いをしていましたが、対応する発言はありませんでした。

 野党から一斉に批判の声が上がりました。特に共産党の志位和夫委員長は13日の会見で、「反論も異論も言わないのは、外交的に失敗」と批判しました。

 プーチン氏発言の背景には、停滞する平和条約交渉を前進させて日本からの投資を呼び込もうとする狙いがあったことは明らかです。安倍首相が2016年5月、「8項目の経済協力プラン」を打ち出したにもかかわらず、2年以上たっても日本からの投資が十分に進んでいないのです。ロシアの不満は高まる一方です。

 安倍氏は16日、NHKの番組で、「発言」の後プーチン大統領から「(中国の)習主席がそばにいたから(発言した)」と説明を受けていたことを明らかにしました。

 中ロは01年に友好関係の基礎を固める「善隣友好条約」を結んだ後、04年に領土問題の最終的な解決で合意したのです。こうした経緯が念頭にあっての発言だったというわけです。しかし、「ちゃぶ台返し」とまではいかなくても強烈な「くせ玉」発言だったことは確かです。

 安倍氏はプーチン氏に、「領土問題を解決し、平和条約を締結する」との日本政府の基本方針を、発言後改めて伝えたことを明らかにしています。

 北方四島は日本固有の領土であり、旧ソ連が第二次世界大戦末に日ソ中立条約を一方的に破棄し侵攻しました。そしてロシアが今も不法占拠を続けているのです。

 日ロ関係は、対中戦略上も極めて重要です。11月のアジア太平洋経済協力会議(APEC)、12月の主要20カ国・地域両首脳会議に合わせてプーチン氏との会談を重ねていき、この「揺さぶり」が契機となって、協議が実質的に前進することを期待したいと思います。