2018.09.11 12:00
世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~
終戦宣言より北の「核・全容申告」が先
渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)
今回は、9月3日から9日までを振り返ります。
この間に次のような出来事がありました。
「中国アフリカ協力フォーラム」(北京、3~4日)の開催。「太平洋諸島フォーラム」、ナウルで開催(4~5日)。韓国特使団が訪朝し金正恩委員長と会談。大統領の親書伝達し、18日に南北首脳会談開催を決定(5日)。北海道で震度7の地震発生。道内全域295万戸が停電(6日未明)。北朝鮮、建国70周年記念行事開催。軍事パレードを行う(9日)、などです。
今回は北朝鮮の非核化問題を取り上げます。
この一週間で新たな局面に移りました。トランプ大統領は8月24日、ポンペオ国務長官の訪朝(27日予定)を中止すると発表しました。その理由は、北の非核化に進展が見られないこと。さらに中国が国連制裁決議をしっかりと実行していないことを挙げて強く批判しました。
その後、韓国特使団(鄭義溶国家安保室長ら)が9月5日、平壌を訪問し、金正恩党委員長と会談したのです。その会談で正恩氏はいくつかの重要な発言を行いました。そして3回目の南北首脳会談を、9月18日~20日まで平壌で開催することが決まったのです。
まず、正恩氏が語った内容を確認しておきましょう。
以下の3点です。
①朝鮮半島の非核化に向けて米国と緊密に協力する。トランプ大統領への信頼に変わりはない。
②トランプ氏の一期目の任期内(2021年1月まで)に敵対関係を清算し、非核化が実現できたらいい。
③核実験場の廃棄やミサイル実験場の解体に相応する措置(米国からの見返り)が実現すれば、より積極的な非核化の措置を取る。
トランプ氏はこの「発言」を大歓迎しました。
9月6日、米モンタナ州での集会で「素晴らしい」と評価し、北朝鮮の非核化措置については「ゆっくりやればいい」とまで語ったのです。
さらに、正恩氏がトランプ氏への「信頼は変わりない」と述べたことに触れて、「正恩氏は素晴らしいことを言ってくれた」と述べ、「私は彼を尊敬し、彼も私を尊敬している。何か起きると思うよ」と語ったのです。褒め過ぎです。
米朝交渉の焦点は絞られています。米国は、まず北朝鮮が「核開発の全容申告」すべきであり、それなくして非核化工程表は作れない、すなわち非核化は進まないと主張しています。
一方、北朝鮮は、その前に朝鮮戦争・終戦宣言を行うべきだと言い、北朝鮮が行った核実験場廃棄やミサイル実験場の解体にふさわしい対応を米国はすべきだというわけです。
しかし、北朝鮮が行った核実験場の廃棄(5月24日)やミサイル実験場の解体などは評価に値しません。外国の核専門家を同席させなかったことや、放射線量を測定する器具の持ち込みを禁じたことがその理由です。
核実験場の「爆破」直後に、トランプ氏が米朝首脳会談中止を表明したことからも、それが評価されていないことが分かります。
今は、北朝鮮が、米国が行った信頼醸成行動(=米韓合同軍事演習中止)に応えるべき時です。それが「核・全容申告」なのです。