2018.09.16 17:00
政治の怠慢、「科学技術立国、日本」が危機に!(2)
ナビゲーター:木下 義昭
若い研究者のストレスの具体例を紹介しましょう。
博士過程を終えた若手研究者の多くは、「ポスドク」という立場で研究を続けます。ポスドクは、大学や研究機関や民間企業で研究職に就くための前段階の過程であり、研究者の卵としてのトレーニング期間という位置付けのポジションです。
ポスドクの研究者は、筆頭著者(第一著者)になることも多く、研究で重要な役割を果たすにもかかわらず、低賃金で長時間労働を強いられるという現状があります。
あるポスドクの嘆きを紹介します。
「多くのポスドクは20代後半から30代前半で、家庭を持ち始める年齢にあたります。しかし低賃金のため、生活のバランスをとるのが難しいのです」。
ほとんどのポスドクの契約期間は、2年から3年と短期間であるため、研究職につながる成果となるべき論文作成が難しいそうで、そのため高いストレスにさらされています。継続的なストレスが、才能のある優秀な若手研究者を潰しています。
こうした中で、「STAP細胞事件」が起きました。この事件で、論文筆頭著者の小保方晴子さんが所属していた理化学研究所発生・再生科学総合研究センターは、「解体的出直し」を余儀なくされました。日本の科学研究の国際的信用も失墜したわけです。
良い具体例を挙げましょう。
発生生物学の第一人者、浅島誠・東京大学名誉教授の研究室のお話です。
「研究には哲学が必要である~恩師から学んだ13の教え」から見ていきましょう。
浅島先生のある弟子の話です。
浅島先生は、横浜市大と東大で40年間研究室を率い、各界に多数の弟子を輩出しました。発生生物学の研究を長年続け、中胚葉誘導物質が「アクチビン」であることを世界に先駆けて発見するなど、教科書に載るような大きな成果を挙げました。ノーベル賞候補者です。
「私は浅島研究室に所属し、研究者としての基礎、社会人としての基礎を教わりました。残念ながら研究者としてはものにならず、別の道を歩んだわけですが、浅島研究室で教わったことは、今でも私の血肉となっています」。
このように、浅島先生の素晴らしさを述べています。
浅島先生は私(著者、木下義昭)の高校の先輩で、時々会食しています。浅島先生は、文化功労者、瑞宝重光章などを受けておられます。
「浅島研究室における哲学」を紹介します。
(1) Research First and Passion
心身ともに健康で、研究第一、情熱ではなく情熱を超えた「熱情」を持て
(2)Philosophy(哲学)を持つこと
(3)物事には順序がある
(4)ゼミではお互いを信頼し、挨拶の励行
(5)コンプライアンスの遵守と安全管理
(6)整理整頓
(7)研究とはオリジナリティーのある研究へのアプローチで知的冒険である
(8)研究をして、成果を得たら論文を書け
(9)良い人間関係は一生の宝である
(10)Minimum Essential(必要最小限)の精神
(11)一流の研究者・教育者を目指せ
(12)電話など連絡があったときにはきちんとメモしておく
(13)健康の保持と早期の対応
弟子はこう言います。
「これは、卒業研究や修士課程の研究を始めたばかりの学生に、社会人としての基礎を諭す教えである。だから整理整頓や電話の取り方など基本的事項も書かれているわけですが、こうした基本的なことを改めて教える『教育者』が研究現場から消えていっているように思います」。
その後この弟子は、「整理整頓」ができなくて、研究者には向いてないと判断し、医学部に入り直して、現在は医師になっているそうです。(続く)