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シリーズ・「宗教」を読み解く 302
キリシタン時代の女性たち④
人間的価値を認める思想を吹き込んだキリスト教

ナビゲーター:石丸 志信

 キリシタン時代、前期には日本にキリスト教が広く伝えられ多くの信者が増えていった時代があった。

 後半に差しかかると、その影響力の大きさや西欧諸国との関わり方、すなわち外交政策とも相まって、キリスト教徒の存在自体に警戒心が高まり、大殉教を経て禁教令によって徹底した弾圧が始まる。

 およそ1世紀にわたるこの時代を生き、信仰に殉じた女性の代表を3人ばかり紹介した。
 これは長く信仰の模範を示した女性として、その生涯が語り継がれてきた故に広く知られている。

 ただ、この女性たちだけがキリスト教信仰に導かれ、信仰者として生涯を全うしたわけではない。
 大殉教の時代には、聖職者、伝道師だけでなく、一般のキリスト教信徒も大量に処刑されている。

 その中には、女性や子供たちも数えきれないほど含まれていた。
 家族、親族がこぞって信仰に導かれることもあり、個人の信仰から、家庭の信仰、親族の信仰というのが当たり前だった。

 女性や子供たちが、夫の権威に屈して洗礼を受けざるを得なかったわけではないのが、先の例でも分かる。
 主体的にキリスト教信仰を学び、自らの信仰として受け入れているのだ。

 ではなぜ、この時代の女性たちが信仰に導かれたのか。
 キリシタン時代の信仰は、カトリックの信仰で、その要点は要理問答書としてまとめられており、それに基づいて信じるべきことと、信者として行うべきことが教えられていた。

 行うべきことの第一に掲げられたのは、旧約聖書に記された「十戒」で、その中に、「あなたの父母を敬え」「姦淫(かんいん)してはならない」がある。
 この戒めに基づき宣教師たちは一夫一婦制を説いた。

 一対の夫婦が愛によって家庭を持ち、子女を生み増やし、健全な家庭を営んでいく人生観を示す教え、それも神の計画の中で良しとされる生き方に心打たれたのではないかと推察することができる。

 評論家・武田友寿は、『切支丹たちの劇詩~百年の祝祭』の中で、「キリスト教は日本の女性にはじめて人間的価値を認める思想を吹き込んだ宗教だと思われる」と記す。
 あくまでも彼の想像だとしても、「男女の愛の正しいあり方、理想を教え、母性の尊さ、偉大さを聖母マリアを通して示したと考えられる」と言う。

 カトリックの信仰伝統を知る者にとっては、ほぼうなずける内容である。

【参照】
武田友寿著『切支丹たちの劇詩~百年の祝祭』(聖母の騎士社、1989年)



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