2023.12.29 17:00
【B-Life『世界家庭』コーナー】
砂漠と炎熱のイスラムの国から
北アフリカ・スーダン日誌⑩
大人も子供も夢中になる日本のアニメ
2015年から2016年まで『トゥデイズ・ワールド ジャパン』と『世界家庭』に掲載された懐かしのエッセー「砂漠と炎熱のイスラムの国から 北アフリカ・スーダン日誌」を、特別にBlessed Lifeでお届けします!
筆者の山田三穂さんは、6000双のスーダン・日本家庭です。
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スーダンの若者の間でも、日本のアニメは大人気です。
2000年以降、南スーダンで石油が採取されるようになるとインフラが整備され始め、テレビに加えてインターネットが普及しました。それによって、若者がアニメに触れる機会が急増しました。
90年代から、サッカーに打ち込む少年たちの姿を描いたアニメ「キャプテン翼」(アラビア語吹き替え版)はテレビで放送されていました。
スーダンの男の子たちはサッカーが大好きです。あちこちの空き地でサッカーをしている姿を見かけますが、サッカーシューズは高価なため履けず、はだしです。
そんな子供たちも、「キャプテン翼」の放送時間になると空き地から姿を消し、自宅に帰ってアニメを見ています。
ある日、近所の小さな食品兼雑貨店(スーダンアラビア語で店を「ドカーン」と言う)に買い物に行くと、店主が夢中になって「キャプテン翼」を見ていました。
私は大声で「これ下さい!」と何度も叫ぶのですが、耳に入りません。やっと私に気づいた店主が振り向いてくれたと思ったら、「あなたも一緒にテレビを見なさい」と言って、また見続けるのです。
結局、買い物は諦めて帰りました。アニメ好きは子供に限らないようです。
今、インターネットを通して流れているアニメで人気なのが、「NARUTO-ナルト-」や「ONE PIECE(ワンピース)」です。吹き替えではなく、アラビア語の字幕が出ます。
スーダンの若者は日本に関心があるので、耳で日本語を覚えようとしています。
あるとき、アニメ好きの女の子が私に「〝あんた〟も、〝おまえ〟も、〝てめえ〟も、〝あなた〟と同じ意味なんでしょ?」と聞くので、一瞬言葉に詰まりました。
アラビア語で「あなた」をさす言葉は、男性に対しては「インタ」、女性には「インテ」しかありません。ですから、アラビア語の字幕では、みんな「インタ」と訳されていたようです。
私はその女の子に「その日本語は全部ぞんざいな言葉だから、日本人には使わないでね。そんなことを言われて喜ぶ日本人は一人もいないから」と答えました。
つくづく、日本語の言葉の多さ、難しさを感じました。
今では文化、芸術、料理などに至るまで、若者たちは日本に関心を寄せています。柔道や空手、習字を習うこともできます。すずりと墨を手に入れた学生は、インターネットで日本の書道家とやり取りしながら習字を学んでいました。ただスーダンの紙は質が悪く、書くのに苦労していました。
私も学生にコロッケを作ってあげたことがあります。また、昔の侍が持っていた2本の刀の長さの違いを話していたら、「短いほうの刀を〝脇差し〟というんでしょ」と返ってきたのには驚きました。
年に1、2回、JICA(国際協力機構)とハルツーム大学(日本の東大に当たる)のアジア・アフリカ研究所が共催し、「ジャパンデー」が開かれています。
今年(※2016年)4月は現代風の「ソーラン節」を学生が出し物として披露していました。皆、上手に踊ってはいましたが、踊り終えるとのびていました。暑さがはんぱではないスーダンでは、授業で激しい運動はしないのです。
若者の日本人気はアニメだけではありません。アジアの小国でありながら独立を守り、欧米に負けないくらい発展している姿にも憧れを感じています。〝自分たちの国もそうなれないだろうか〟と。
そういう若者たちを見ていて胸が痛くなることがあります。これといった産業がないスーダンでは、大学を卒業しても国内で仕事を見つけることが難しく、近隣のサウジアラビアやカタールなどの湾岸諸国に行って就職してしまうからです。
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(この記事は、『世界家庭』2016年6月号に掲載されたものです)