総合相談室 Q&A 第13回(最終回)
発達障害をどう理解し、対応したらいいですか②

回答:臨床心理士・大知 勇治

 この内容は、『TODAY'S WORLD JAPAN(トゥデイズ・ワールド ジャパン)』2013年9月号の「総合相談室Q&A」から抜粋したものです。「総合相談室Q&A」は、動画版(U-ONE TV/全16回)でもご覧いただくことができます。

Q6 今回は、発達障害の中の学習障害について説明をお願いします。

A6 学習障害は、英語のLearning Disabilitiesの頭文字をとって、LDと呼ばれることもあります。一般的には、このLDと呼ぶほうがなじみがあるかもしれません。
 文部科学省は、学習障害を次のように定義しています。
 「学習障害とは、基本的には、全般的な知的発達に遅れはないが、聞く、話す、読む、書く、計算する、推論するなどの特定の能力の習得と使用に著しい困難を示す、様々な障害を指すものである。学習障害は、その背景として、中枢神経系に何らかの機能障害があると推定されるが、…視覚障害、聴覚障害、精神薄弱(現、知的障害)、情緒障害などの状態や、…環境的な要因が直接の原因となるものではない」
 この定義のポイントは、次の三つの要件を満たしているということです。
 まず、聞く、話す、読む、書く、計算する、または推論する能力の中に著しい困難を示す状態があるということ。二つ目は、全般的な知的な遅れはないということ。三つ目は、中枢神経系の何らかの機能障害と推定され、他の障害や環境的な要因ではないこと。
 この三つの特徴を併せ持つというのは、ちょっとイメージしづらいかもしれません。知的な遅れはないけれど、学習面のある一部に困難を抱えているということです。
 一見何も問題がない普通の子供のように見えるのに、なぜか字が読めないとか、数の概念が分からず簡単な計算もできないというような困難を抱えているような人が、学習障害です。
 学習障害の中でも、特に目立つのは、文字が読めない「読字障害」、文字や文章が書けない「書字表出障害」、数の概念や計算に困難を抱える「算数障害」です。
 皆さん、ハリウッドスターのトム・クルーズをご存じだと思います。彼は、読字障害をもっており、文字が読めません。ですから、台本も他の人に読んでもらってそれを録音して聞いて覚えるそうです。彼の演技や来日しているときのようすを見ても、彼が文字が読めないとは誰も思わないでしょう。
 このように、学習障害というのは、一見何の問題もなさそうに見えるのに、何か学習面に困難を抱えている状態なのです。
 学習障害を持つ子供たちは、学習障害であると気づかれずに、「怠けている」「真面目にやらない」「やる気がない」と思われたり、ひどい時には「わざとできないふりをしている」「不真面目で先生をばかにしている」などと思われてしまうことさえもあります。
 本人は一生懸命にやってもできないのですから、そのように言われた分だけ傷ついてしまい、本当にやる気をなくしてしまいます。
 ただ、ここで注意しなければならないのは、軽度の知的障害と学習障害が混同されることが多いということです。学習面に困難を抱えるという点では、知的障害も学習障害も同じです。ただ、知的障害の場合には、全般的な遅れがあるので、日常生活の中でも、年齢に比べて、全般的な理解の悪さや行動に幼さを感じることが多いものです。このようなときには、学習障害というよりも知的障害の可能性を疑う必要があります。
 きちんと調べるためには、個別の知能検査をする必要があります。簡単な目安としては、小学校4年生で読み書きや計算が小学校1年生程度であるとか、中学校に入っても、学力が小学校2、3年生程度、例えば掛け算や割り算がうまくできないというときには知的障害を疑ってみる必要もあります。軽度の知的障害と学習障害は全く違うもので、対応方法も違ってきます。

---

Q7 学習障害への対応方法には、どのようなものがあるのでしょうか?

A7 学習障害への対応として、大きく二つの方法があります。一つは、少しでも困難を克服していくために学習方法を工夫するというやり方です。
 例えば、読字障害があったとしても、文字の形を捉えるやり方を工夫することにより、文字を覚えていける場合もあります。文字の書き順に合わせて色を変えるなどして、文字の形を把握するための工夫をしたりします。すると文字の形をとりやすくなることもあります。
 そのように、抱えている学習面の困難の特徴に合わせて、学習方法をいろいろ工夫することによって学習困難を一つずつ越えていけるようになることもあります。
 もう一つは、困難を抱えながらも生活に不自由がないように対応していく工夫をする方法です。例えば、簡単な足し算や引き算も難しいという場合に、電卓を使うことによって、本人が計算しなくても生活に困らないようにしたり、うまく字を書けなくてもワープロを使ったりしてその困難を補うという方法です。
 トム・クルーズは、台本を他の人に読んでもらっていますが、これも困難を抱えながら仕事をしていくための工夫です。また、以前会った学習障害のかたは、駅名が読めないために切符を買うのが難しく、最低料金を買って乗り越しをしていたのですが、ICカードを使うようになってからは、文字が読めなくても電車に乗りやすくなったと言っていました。
 このように、テクノロジーの発達は、学習障害の人にとっても、とても大きなメリットがあります。
 学習障害と一口に言っても、さまざまな状態があり、状態が違えば、適切な対応方法も違ってきます。専門機関に行って、状態を詳しく診断してもらい、適切な対応方法を教えてもらうことが大切です。

---

 今回で「総合相談室 Q&A」は最終回です。ありがとうございました。