2023.11.03 12:00
スマホで立ち読み Vol.27
回顧録『愛あればこそ』7
久保木哲子・著
スマホで立ち読み第27弾、回顧録『愛あればこそ』を毎週金曜日(予定)にお届けします。
久保木修己・家庭連合初代会長の夫人である久保木哲子さん(430双)が、2023年9月18日に聖和されました。故人の多大な功績に敬意を表し、著作である『回顧録 愛あればこそ』を立ち読みでご紹介いたします。
ここでは第5章と第6章を試し読みいただけます。
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第六章 グランドツアー
蒋介石総統と会談
久保木が台湾の蒋介石総統にお会いしたのは、1971年5月14日のことです。この会談は、台湾政府の要人であるWACL(世界反共連盟)の名誉議長の努力によって実現しました。
台湾側では蒋介石総統に対するガードは非常に固いものがありました。普通、一民間人がなかなか会えるものではありません。それでも会えたのは、久保木がWACLの日本支部長ということで、名誉議長が相当後押ししてくれたのです。
久保木が部屋に入っていくと、総統は机に向かって何か書きものをされていたようです。総統は久保木に気づくと、すぐ立ち上がって、握手をするために近寄ってきました。そして久保木の手を握ったまま、しばらくじっと久保木の目を見つめ、その後、座るように促されました。
当初20分の予定が、1時間を超えるほど、会談は熱のこもったものとなりました。久保木も総統も時間のたつのを忘れて語り合ったのを記憶しています。久保木も気づいてみたら、椅子から身を乗り出して、右手を振り上げてまくしたてるというありさまだったと聞きました。
83歳の総統も、静かな透き通るような目で久保木を凝視しながら、とくとくと話をされ、特に中共問題になると興奮する様子が伝わってきたといいます。
久保木は前年秋に日本で行われたWACL大会について報告するとともに、日本の勝共活動を説明しました。また、その頃既に中共承認反対の署名活動を日本で展開していましたから、その写真などを久保木が見せると、総統はことのほか喜んでいました。
その1年後、久保木は蒋介石総統に再びお会いしています。
その時、久保木は衝撃的なことを総統に申し上げました。実は、久保木は「台湾は今、独立すべきだ」ということを蒋介石総統に伝えるように、文(ムン)先生から言われていたのでした。
これは総統にとっても、中国共産党にとっても、タブー以外のなにものでもありません。大陸を共産党から追われた総統は、大陸は自分のものだと思っています。独立せよということは、それを諦めよということです。久保木としては、今独立しておかなければ、後になればなるほど、複雑な問題が絡んでくるから、できなくなる。今しかないということだったのです。
今でこそ、台湾の中に独立推進派が多くなってきていますが、その時代にあっては、許されがたい言動です。総統にしても、絶対に聞きたくない言葉だったでしょう。このことを言う前に、久保木は「今から私が話すことは、大変言いづらいし、総統には聞きづらいことです。もし、話の途中で気にくわなければ、殴(なぐ)っても蹴(け)っていただいてもかまいません」と言ってから話し始めたのです。
蒋介石総統は、夫の発言を顔色を変えずに聞いていました。
さすがにコメントはありませんでした。やはり重大なことです。周りに人もたくさんいましたし、どこかにそんなことが漏(も)れたら、台湾中大変なことになります。
蒋介石総統の死後、日記が見つかりました。それに久保木との会談のことが書いてあったそうです。日本から来た久保木という男がこういうことを言った。非常に大切なことだと書き留められていたそうです。
久保木の話が何か心に残ったのだと思います。その時に写した蒋介石総統と久保木の一緒の写真が孫文記念館に掛けられています。そこに掛けられている日本人の写った写真はこれだけで、「身にあまる光栄だ」と久保木は思っていました。
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次回は、「ローマ法王に謁見」をお届けします。