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神様はいつも見ている 15
~小説・K氏の心霊体験記~

徳永 誠

 小説・K氏の心霊体験記「神様はいつも見ている」を毎週土曜日配信(予定)でお届けします。
 世界平和統一家庭連合の教会員、K氏の心霊体験を小説化したものです。一部事実に基づいていますが、フィクションとしてお楽しみください。同小説は、主人公K氏の一人称で描かれています。

第2部 姉が統一教会へ
2. 変貌した姉

 父の事故をきっかけに神懸かりになった母によってわが家は神道系の神様を祀(まつ)る教会になったが、教会の活動によって生計を立てていたわけではなかった。教会の活動はほとんどボランティアによるものだった。

 さい銭箱は置いてあったが、そこにお金を入れるかどうかは信者さんの気持ち次第で、額が決められていたわけでもない。
 実際、さい銭箱を開けても大した額にはならなかった。それで生計が立つような状態ではなかったということだ。

 教会活動は夫の命を救ってくれた神様への感謝からの行為だったので、母自身、それで生活の糧を得ようという考えは全くなかった。

 信者さんが増えることによってむしろ出費は増えた。
 毎日、信者さんが数多く押し掛けてくるので、その出入りだけで畳が傷むし、季節に応じた環境を保つために冷暖房設備も必要になる。

 神様への供え物も毎日用意しなければならない。だから結構な出費になるわけで、教会を維持するだけでも大変だった。

 少しずつ事業が軌道に乗ってきているとはいえ、教会を維持するための経費と家族を養うだけの収入には至らなかった。
 私はわが家の経済状況を考えながら、母の教会の跡を取るのは姉がいいと思っていた。

 「おかんの教会はお姉ちゃんが継げばいい。僕は会社勤めをしてそれを支えたるわ」

 「そうやねえ」

 「それがいいかもしれないね」

 母も賛成してくれた。
 理想的なのは、将来姉の夫になる人が事業をして教会を維持できるようにするのがいい。
 私はそれを経済的な面から陰ながら支える、といった感じで回していけばいいのではないか、そんなふうに考えていた。

 姉もその自覚はあった。
 少しずつ母のお勤めを手伝うようになっていたし、家業の土木会社も姉が成人になる頃にはトラックや重機も備え、従業員も十数人雇うほどになっていた。

 兄夫婦も姉も父の会社を手伝った。
 姉は、将来を見据えていて母の跡を継ぐことは了承していたが、ただ母のお勤めを継ぐだけでは毎日の生活がつまらないとも言っていた。

 「お母さんのようになるんだったら、今のうちに自分の好きなことも少ししとかなあかん」

 姉は何か習い事をしたいと思っていた。といっても、熱中している趣味や、やりたいことがあるわけではなかった。私はその頃、野球に夢中だった。

 「姉ちゃんは僕と違って運動音痴だからねえ」

 「野蛮人のあんたと一緒にしないで!」

 姉が選んだのは書道を習うということだった。
 両親は賛成した。書道を学んで字がうまくなるのは、接客や事務の仕事をするのにも役に立つと考えたからだ。
 書道教室に通い始めると、姉は楽しそうだった。

 「字がきれいに書けると、心が落ち着くし、いいわ」

 「顔や姿は変わらないけどね」

 「言ったな!」

 「おかん、姉ちゃんが僕をたたきよる。助けて!」

 私も、姉が喜ぶならば、それでいいと思っていた。
 だが書道を習うに従って、姉の様子が少しずつ変わっていった。

 姉は低血圧なので、普段朝が苦手でなかなか起きてこなかった。
 ところがその姉が早起きするようになったのだ。そして朝早くから出掛けるようになった。

 何か変なことでもしているのではないかと心配していたら、近所の掃除をしていたのだという。近所の人からそのことを聞いた時には、家族全員が驚いた。

 「あの朝寝坊の姉ちゃんが、朝早く起きて近所の掃除までするなんて!」

 変われば変わるものやなあ、と私は本当に驚いた。

 姉は確かに変わっていった。私と姉は特に仲が良かったのだが、姉がなぜ変わってしまったのかは全く分からなかった。
 姉に聞いても、言葉を濁してはぐらかし、教えてくれない。
 悪い事をしているわけではないが、姉の突然の変貌ぶりが気になったし、心配にもなった。

 ある日、姉が変わってしまった理由を知ることになる。
 食卓を囲んでいた家族に向かって、姉は深刻な表情で「統一教会(現在の家庭連合)に行きたいので、許してください」と切り出したのだ。

 「“統一教会”って何や?」

 「キリスト教系の宗教です」

 「何やて!」

 姉は書道教室に通って書道ばかりでなく、統一教会の教えを学んでいたのである。事前の相談もなく、姉は家の神道ではなく、他の宗教に通いたいとにわかに言い出したのだ。
 私には全く理解できなかった。家族も同様だった。

 「なんでそんな所へ行きたいんや?」

 姉は驚くべきことを口にした。

 「大神さん(ここでは「須佐之男命/スサノオノミコト」のこと)が私に統一教会へ行けと言っている」

 「まさか!?」

 「姉ちゃん、うそついてるとちゃう?」

 「うそなんてつかん」

 私には到底信じられなかった。第一、スサノオの大神はめったに出てくることはない。出てくるのは、通常、正月と6月と12月の人の汚れや罪を払い清める大祓(おおはらえ)という大事な神事の時ぐらいだ。

 だから、姉の言うことは信じられなかった。姉だけに個人的にスサノオの大神が何かを命ずるというのもおかしい。

 姉と家族の間で押し問答が続いたが、なかなか姉が認めないので、それならば、神様に聞いてみようということになった。

 母の神懸かりは、基本的には、霊界の神霊、すなわちスサノオの大神をトップとする神々が乗り移ることで行われる。

 スサノオの大神は神々のトップに立つ貴い存在なのでめったに出てこないが、その眷属(けんぞく)の神々はよく現れた。

 母の守護神は聖姫大神(ひじりひめおおがみ)だった。私は聖姫大神が出てくると思っていた。ところが、この時に母に乗り移ったのは、神様ではなく、亡くなった祖母の霊だったのだ。

 私は意外な展開に驚いた。

 祖母の霊はぶつぶつ何かしゃべっていた。

 私は当時、霊たちは全てのことを知っていると思っていた。
 だから祖母の霊も、スサノオの大神が言っていることが本当かどうかも知っているに違いないと思い込んでいたのだ。

 「おばあちゃん、姉ちゃんの言っていることは本当?」

 しかし私の問い掛けには直接答えず、祖母は思いがけないことを語った。

 「苦労するから、行かん方がいい」

 「おばあちゃん、それってどういうこと?」

 祖母は、ただ「苦労するから、行かん方がいい」と言うだけなので、これでは埒(らち)が明かないと思って、もう一度、祖母の霊に代わって神様に尋ねることにした。

 すると、今度は母の守護神である聖姫大神が出てきた。
 私は祖母の時と同じ質問をした。

 「大神さんは、そんなことは言ってないと思うよ…」

(続く)

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 次回は、「聖姫大神の言葉か、姉の言葉か」をお届けします。