2023.06.12 17:00
コラム・週刊Blessed Life 268
カホフカ巨大ダムの決壊、ウクライナ戦争の行方!
新海 一朗
2023年6月6日、ウクライナ戦争の今後の展開の予想を困難にするような大事件が起きました。
ドニエプル川(ドニプロ川)に造られたカホフカ水力発電所の巨大ダムが破壊されるという大事件です。ダムの下流域は街も農地も水没し、大災害に見舞われています。
特に、数千ヘクタールに及ぶ広大な農地が水没しており、多大な被害が連日報道されています。
ドニプロ川西岸(ウクライナ側)は、約1万7000人の避難が必要と見られ、ドニプロ川東岸(ロシア支配地域)は約2万5000人が避難を必要としているようです。
ウクライナとロシアは、ダムを破壊したのは相手方であると非難合戦を展開しています。これまでの経過を見ると、昨年11月以降、ドニプロ川の東側を占領してダムの管理を行っていたのはロシアです。
外からミサイルを打ち込んでも簡単に破壊することができない頑丈な造りのダムを、その内部に大量の爆薬を仕込んで決壊させることができるとすれば、それはウクライナではなく、ダムを管理していたロシアの方であるといえます。
一方、自然破壊(腐食した所から自然に壊れた)が進行した結果、ダムの崩壊につながったのだという見方もあります。
しかしながら、ウクライナがへルソン州から渡河作戦によってクリミア半島奪還の反転攻勢を実行することをロシア側が恐れ、渡河作戦阻止のためにダムを破壊する目的が最初からあったとする専門家の指摘もあります。そうであるとすれば、やはりロシアの犯行説が強く疑われても仕方ありません。
ダム破壊の結果を見ると、ドニプロ川の西側地域の土地は高く、東側地域は低くなっていますので、ロシアが占領している東側に大被害が集中的に及ぶ形になっています。
また、クリミア半島への水補給がカホフカダムの貯水によってなされている面もありますので、ダム破壊は必ずしもロシア側にメリットをもたらしていないという見方もできます。
いずれにせよ、ウクライナの反転攻勢が注目される中で起きたこの事件が、今後どのような影響を及ぼすのか気になるところです。
反転攻勢は東部と南部で展開される予定であると見られていることから、東部方面は大きな反転攻勢を仕掛けていくことでしょうが、南部のへルソン州からクリミア半島奪還を狙う作戦は、ダムの決壊によって見通しが立たなくなっています。
気になるのはロシア側の内部の対立と分裂です。ロシア兵の士気低下、統率の乱れ、作戦の杜撰(ずさん)さなど、このままでは勝てない状況であり、今やプーチン大統領の運命が、ウクライナ戦争の結末いかんに深く結び付いてきたということです。
民間軍事会社ワグネルの戦闘員を率いるエフゲニー・プリゴジンがプーチンの戦略に疑問を呈し始め、ロシア軍の中枢であるショイグ国防相とゲラシモフ参謀総長を公然と批判(それは暗にプーチン批判でもある)する一方、軍上層部の不満分子ミハイル・ミジンツェフやスロビキンを取り込んでいます。
また、事実上の政権ナンバー2であるニコライ・パトルシェフ安保会議書記との距離も近いと見られています。
パトルシェフの背後には、国営石油会社ロスネフチ社の会長イーゴリ・セチンが控えています。
結局、プリゴジンは、パトルシェフとセチンの二人と組んで戦術的同盟関係を結んだと見られ、その他の権力者も絡んで、プーチンの権力基盤が不安定化していることは確かなようです。
ダムの決壊、ロシアの権力闘争、このような中で、ウクライナの反転攻勢がどのように進展するのか目が離せません。