2023.05.21 22:00
ダーウィニズムを超えて 7
アプリで読む光言社書籍シリーズとして「ダーウィニズムを超えて」を毎週日曜日配信(予定)でお届けします。
生物学にとどまらず、社会問題、政治問題などさまざまな分野に大きな影響を与えてきた進化論。現代の自然科学も、神の創造や目的論を排除することによって混迷を深めています。
そんな科学時代に新しい神観を提示し、科学の統一を目指します。
統一思想研究院 小山田秀生・監修/大谷明史・著
第一章 進化論を超えて
―新創造論の提唱―
(三)連続的か、瞬間的か、段階的か
(4)中立突然変異
1966年に遺伝学者の木村資生(もとお/1924-94)によって「中立突然変異」が提唱された。それによると、生物の変異を分子レベルで見るとき、突然変異のほとんどは個体にとって有利でも不利でもない中立的なもの──つまり自然選択によって選択されることも捨てられることもないもの──であって、それが遺伝子浮動によって、偶然に種内に蓄積される。そのような中立突然変異が、あるとき活性化されて突然、有利な形質として現れるのであり、それが生物の進化をもたらすのである。そのとき、自然選択が作用するという。すなわち、長期にわたる分子レベルでの突然変異には自然変異は作用せず、分子レベルの変異が生物の表現形質(外形)に現れたときにだけ、自然選択は作用するというのである。
中立突然変異説は分子レベルにおいてほぼ全面的に自然選択を否定するものであった。そして環境に対して、たまたま運良く有利な形質を身につけたものだけが、自然選択によって生き残るというのである。これを木村は「適者生存」ではなく「運者生存」であると述べた。今や中立説は世界的に認められるようになっている。したがって、金子隆一・中野美鹿が言うように、中立突然変異によって偶然に蓄積された形質が、表現形質に現れたときに初めて自然選択が作用するというのが、今日、自然選択という概念のぎりぎりの防衛ラインになったのである(*17)。
(5)主体性の進化論
40年以上にわたってネオダーウィニズムを批判し続けてきた今西錦司(1902-92)は、生物には目的性や主体性があるとして「主体性の進化論」を唱えた。今西によれば、より適した個体が選択され残っていくという形で種が進化していくのではなく、種はある危機に遭遇した場合に、種全体として比較的短期間のうちに「変わるべくして変わる」のである。「種とは、環境に適応するため、絶えずみずからを作り変えることによって、新しい種に変わっていく(*18)」のであり、方向性をもった突然変異によって生物は進化するのである。キリンの首はなぜ長くなったのかということについて言えば、「キリンの首はある時、必要に迫られていっせいに伸びた」ということになる。
今西はまた4種類のヒラタカゲロウの幼虫が川の流速の違いに対応して棲(す)みわけていることを発見し、「棲みわけ」理論を提唱した。ダーウィンのように、個体同士が生存競争を行って生存に適したもののみが生き残るというのではなく、近接した種同士は生活の場を棲みわけて共存しているという。
変わるべき時が来れば、いっせいに種は変わるという今西の進化論は、結論だけ見れば、断続平衡説の立場と一致するものである。断続平衡説、中立突然変異説、主体性の進化論等によって、偶然の微小な突然変異を積み重ねながら、徐々に、連続的に進化していくというネオダーウィニズムは大きく揺らいでいるのである。
(6)ウイルス進化論
最近の分子生物学では、細胞間、個体間、あるいは種と種の間で、ウイルスが遺伝子を運ぶということが分かっている。そこで遺伝学者の中原英臣と理論物理学者の佐川峻は、現代の人為淘汰ともいえるウイルスによる遺伝子操作が自然界において起きたと考え、「ウイルス進化論」を主張している。彼らは、ウイルスの本来の機能は病気を起こすことにあるのではなくて、種を超えて遺伝子を伝達したり、混ぜ合わせることにあるという。キリンの首はなぜ長くなったのかについて言えば、ウイルス進化論によれば「キリンの首が伸びるウイルス性伝染病にかかった」ということになるのである。
*17 金子隆一・中野美鹿『大進化する進化論』265頁。
*18 今西綿司『進化とはなにか』講談社、1976年、31頁。
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次回は、「宇宙空間起源説」をお届けします。