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【B-Life『世界家庭』コーナー】
砂漠と炎熱のイスラムの国から
北アフリカ・スーダン日誌⑥
女性はか弱い存在?!
男性が保護してあげる社会

 2015年から2016年まで『トゥデイズ・ワールド ジャパン』と『世界家庭』に掲載された懐かしのエッセー「砂漠と炎熱のイスラムの国から 北アフリカ・スーダン日誌」を、特別にBlessed Lifeでお届けします!

 筆者の山田三穂さんは、6000双のスーダン・日本家庭です。

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 お嫁に来たばかりの頃、夫に連れられて親戚の家100軒近くを一か月かけて挨拶回りしました。〝どこまでを親戚と呼ぶのだろう?〟と不思議に思うほど、家系的に遠い親戚の家まで行きました。

 訪問した親戚のうち8割は、イスラム教の伝統と風習を重んじる家庭でした。そのような家に初めて訪問したとき、夫の後に続いて門をくぐろうとすると、夫が「あなたはこの門から入ってはいけない。向こうの門から入って」と言うのです。

 それで少し離れた所にある小さな門から入ると、その家の奥まった部屋に通されました。部屋には10人ほどの女性の親戚と近所の人が待っていて、「よく来たね」と歓迎してくれました。

 スーダン人は日本人に好感を持っています。JICANGO団体の援助によって水道施設などが整備され、医療奉仕団の支援も受けているため、感謝しているのです。

 親戚の家では食事を頂きました。飲み物は紅茶やトルココーヒーが出され、小さなカップなのにスプーン山盛り4杯の砂糖を入れて飲むのです。私には甘すぎて、血糖値が上がって倒れるのではないかと思うほどでした。

▲コーヒー(煮出した濃いトルココーヒー)に砂糖を入れるところ

 2杯目を頂くとき、ジェスチャーで〝砂糖は1杯〟と伝えると、叔母が「砂糖は体にいいんだ」と言いながら、やっぱり砂糖を4杯入れました。そうして、砂漠と乾燥の国で暮らす知恵を学びましたが、前途多難であると感じました。

 食事を済ませると、その家の息子(8歳)が私に「あなたの旦那が帰るって言っているよ」と伝えに来ました。アラビア語には尊敬語、謙譲語がないため、相手が年上でも呼び捨てで、ため口なのです。

 時に、小学生ぐらいの子から「みほ!」と言われるとムカッとくることがありますが、尊敬表現がないし、文化もないため、いくら日本語の「さん」という敬称を説明しても、分からないのです。

 イスラム教徒は一般的に男女別の生活を厳守しています。出入り口や食事だけでなく、男性の部屋はその家の表側で、女性は裏手の台所の近くの部屋で過ごします。

 一家の長が、女性客の部屋に顔を出して挨拶することはあっても、妻が男性客の部屋に行くことはありません。お茶や食事の準備は女性の担当ですが、部屋に運ぶのは夫か息子、せいぜい未婚の娘です。娘が運ぶときは、タルハと呼ばれるスカーフを必ず頭からかぶらなければなりません。

 食事も男女別です。男の子は15歳くらいになると母や姉妹とは食事を共にしなくなり、自然な形で父親や兄たちと食べるようになります。

 日本のような食卓はなく、シーニーヤと呼ばれる大きな丸いお盆に煮込み料理とパンが載せられて運ばれます。

▲結婚式場での食事風景。丸いかねのお盆に、肉と野菜の煮込み料理とパンが載せられている

 お盆を囲んで右手で食べるのですが、たとえ左利きでも食事は右手です。左手は不浄の手と言われ、トイレに行ったときに使うものとされているからです。

 戒律はスーダンの主要な都市ではまだ緩やかなほうです。近隣国のサウジアラビアではもっと厳しく、女性は父や夫、兄弟などの保護者が同伴しなければ外出することができません。

 そのため、買い物は男性の仕事だそうです。サウジアラビアで生活したことのある知人に「じゃあ、女性の下着を買うのも男性同伴?」と聞くと、「そうだ」と答えました。

 イスラム社会では、女性はか弱い存在とされていて男性が保護してあげなければならないという考えがあります。ですから、男性は女性に良い服を着せ、たくさん食べさせなければなりません。女性がきちんとした身なりをし、太っていると男性に甲斐性があると言われるのです。

 では、本当に女性がか弱いかというと、それも疑問ですね。

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(この記事は、『世界家庭2016年2月号に掲載されたものです)