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コラム・週刊Blessed Life 262
どうするフランス? 国内大動乱の行方やいかに

新海 一朗

 2023年に入って、EU(欧州連合)各国の不安定な政権運営が顕著になっています。
 中でも、フランスの国内動乱はまるで革命前夜のような状態で、マクロン政権は大丈夫かといった声も聞かれるほどです。

 事の発端は、今年の1月中旬にマクロン政権が年金改革法案を発表したことです。4月6日には、11回目となる大規模な反対デモがフランス全土で行われています。

 EUの統計では、年金受給はドイツやイタリアが67歳で始まる一方、フランスの62歳は最も低いため年金財政は苦しく、2020年の年金の支出は国内総生産(GDP)比15.9%と、EU加盟国で3番目に高いのです。

 かつてフランスも受給開始は65歳でしたが、左派が主導して1980年代に60歳への引き下げを実現しました。2010年に右派政権が62歳に引き上げましたが、その際にもデモが頻発した経緯があります。

 マクロン政府が進める年金改革法案は、年金支給年齢を現行の62歳から64歳に引き上げるというもので、国民はそれに猛反発しているのです。
 3月20日、改革法案は成立しましたが、世論は依然としてくすぶり続けています。

 もちろんマクロンの強硬姿勢は国家財政がひっ迫しているからですが、EU各国も同様の課題を抱えている中でのフランス全土における連日の何百万人にも及ぶ大規模デモは、異常な光景となっています。

 このような国内騒乱状態の真っただ中で、マクロン大統領は45日から7日まで中国を訪問し、習近平国家主席と会談しました。

 4月6日に北京から広州に移動する機内で行われた米メディアのポリティコと仏紙レゼコーのインタビューでマクロン大統領が語った内容が、米国を強く刺激しています。

 マクロン大統領が「欧州は『単なる米国の追随者』ではない。戦略的自立性を持たなければならない」という趣旨の発言をしたことに対して米国は猛烈に反発したのです。

 「戦略的自立性を持つ」という意味は、台湾危機の加速(米中衝突)はEUの利益にならず、米国に加担して中国を刺激するような事態は断固として避けたいということです。

 米国の姿勢とは一定の距離を取るという意味のマクロン大統領の発言は、欧州からも批判が出ました。

 例えば欧州メディアのユーロニュースは、「完全な分析の間違い。発言のタイミングも破局的だ」というフランスの専門家の言葉を伝えています。
 マクロンの発言と同じタイミングで、中国は台湾付近で実弾を使った軍事演習を始めたからです。マクロンは、完全に中国に利する発言をしてしまったのです。

 ウクライナを支援し、中国の台湾侵攻を阻止しようとしている米国や欧州に対して、マクロンは裏切り行為とも言うべき発言をしたのでしょうか。
 ウクライナで米国に頼りながら、台湾は知らないふりをするというなら、確かに「裏切り」と言わざるを得ません。

 米国のウクライナ支援は1月時点で、軍事、金融、人道分野を合わせて769億ドルに及んでおり、フランスの17.6億ドルの実に44倍です。これを見れば、フランスは米国の支援にほとんど「ただ乗りしている」と言っていい状況で、米欧の関係者が怒るのも当然です。

 フランスのマクロン政権は現在、内政と外交の両面で難局に立たされています。