愛の勝利者ヤコブ 12
イサク献祭②

愛の勝利者ヤコブ 12

　アプリで読む光言社書籍シリーズとして「愛の勝利者ヤコブ」を毎週月曜日配信（予定）でお届けします。
　どの聖書物語作者も解明し得なかったヤコブの生涯が、著者の豊かな聖書知識と想像力で、現代にも通じる人生の勝利パターンとしてリアルに再現されました。（一部、編集部が加筆・修正）

野村 健二・著

イサク献祭②

　さらにアブラハム一行がゲラルを通ろうとした時、ゲラルの王アビメレクとの間に、エジプト王パロとの間に起こしたのと全く同様の悶着（もんちゃく）を起こした。アブラハムは、彼との間に妻サラをめぐっての問題や、井戸の所有権に関して明確な協定を結ぶなどして、さまざまな難事件を解決した。その苦労によって人間が鋼鉄のように鍛えられたアブラハムに対して神は、前の象徴献祭での重大な過失を償わせるため、最後に最も厳しい試練を課せられた。

　「あなたの愛するひとり子イサクを連れてモリヤの地に行き、わたしが示す山で彼を燔祭（はんさい）としてささげなさい」（創世記22・2）と言われたのである。

　アブラハムは自分の耳を疑った。

　100歳にして初めて、正妻サラの胎を通して得たたった一人の世継ぎの男の子イサクを殺してささげよとは……。神はイサクを授けると言われたあの時、このイサクから「多くの子孫を得させ、国々の民をあなたから起そう」（創世記17・6）、「わたしはあなたを多くの国民の父とする」（同17・5）と、はっきり契約を結びまでされたのではなかったろうか。

　一瞬、アブラハムは神のなさることが全く理解できなくなってしまった。ハガルとの間にできた一子イシマエルは砂漠へと去ってもういない。残るはただ一人、100歳にしてやっと得た正嫡のイサクだけではないか。もう老い先の短いわが身、なぜこの身を燔祭にささげよと言ってはくださらないのか。それならば、なんの未練もなしに今すぐにでもみ意（こころ）のままにと、この身を投げ出そうものを……。

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　次回は、「イサク献祭③」をお届けします。