2022.09.14 22:00
【テキスト版】
ほぼ5分でわかる介護・福祉Q&A
第20回 障がい者福祉編②
「ノーマライゼーション」って何ですか?
ナビゲーター:宮本 知洋(家庭連合福祉部長)
医学用語・法律用語としては「障害」とし、一般的な用語としては「障がい」と表記しています。
今回は、「障がい者福祉の話の中で、『ノーマライゼーション』という言葉をよく聞きます。どのような意味なのでしょうか?」という質問にお答えします。
「ノーマライゼーション」は、社会福祉、特に障がい者福祉における重要な理念で、「障害者を特別視するのではなく、一般社会の中で普通の生活が送れるような条件を整えるべきであり、共に生きる社会こそノーマルな社会である」(内閣府ホームページより)という考え方です。
日本政府は、このノーマライゼーションの理念に基づいて、障がいのある人もない人も互いに支え合い、地域で生き生きと明るく豊かに暮らす社会を目指して、障がい者の自立と社会参加の促進を図っているということなのです。
ノーマライゼーションという概念は北欧が発祥地です。
話は1950年代にさかのぼりますが、デンマークの知的障害者の施設の中で自分の子供が人間らしい扱いを受けていないということを知った父母たちが、その状況を改善して、知的障害児にも普通の教育を与えてほしいと要求する運動を始めました。
終戦間もないデンマークでは、巨大な施設にたくさんの知的障害者が詰め込まれ、子供に対しての教育も十分に提供されていなかったのです。
やがて、この運動に共感したバンク・ミケルセンという行政官が、1959年にデンマークで知的障害者法を制定し、その法律の中にノーマライゼーションの考え方を反映させたのです。
周囲からの反対にも屈せずこの理念の必要性を訴え続けた彼は、「ノーマライゼーションの父」と呼ばれるようになりました。
ミケルセンの信念に基づいた行動が法律の制定にまで至らせたことはもちろんですが、そのきっかけとなった知的障害児の親の会の熱意が国を動かしたという事実も見逃がすことはできません。
障がい者福祉は当事者やその家族によって始まるという歴史的教訓でもありますね。
その後、ノーマライゼーションは北欧、北米をはじめ、先進諸国にも紹介されるようになり、その実現のためにはバリアフリー化や障がい者への偏見の除去が必要であるということが付け加えられ、障がい者福祉の基本的な理念として定着していきました。
日本国内においても、政府は平成7年に「障害者プラン・ノーマライゼーション7か年戦略」を掲げ、障がい者の社会的自立やバリアフリー化の促進などに関して、具体的な目標値を掲げた施策を行いました。
その後も障害者基本法に定められた内容に従って、内閣府の障害者政策委員会が「障害者基本計画」の策定を行ってきました。
これは、ノーマライゼーションの価値観を国民が共有できるようになるための視点や方向性の提示、具体的な施策を示す計画となっています。
ノーマライゼーションに関連した概念で、「ソーシャル・インクルージョン」という考え方もあります。
ソーシャル・インクルージョンは「社会的包摂」という意味で、「社会的に弱い立場にある人を含め、全ての人々が孤立したり、排除されたりせず、社会に参画する機会を持てるようにする」という考え方です。
ノーマライゼーションが障がいのある人を対象としているのに対し、ソーシャル・インクルージョンは障がいのある人に限らず、社会から排除されている、あるいはその可能性がある人、全てを対象としています。
かつては最も偏見と差別にさらされてきた障がい者ですが、ノーマライゼーションに基づく取り組みで少しずつ課題が解消されてきました。
そこで、次の段階として出てきたのがソーシャル・インクルージョンだということですから、これもノーマライゼーションの延長線上にあるものだと考えてもよいと思います。
それでは、今回の講座はここまでで終了いたします。