2022.08.26 17:00
【B-Life『世界家庭』コーナー】
トムヤムクンを召し上がれ
バンコク生活記⑪
タイ人は、どんなときでも笑顔を絶やさない!?
2013年から2014年まで『トゥデイズ・ワールド ジャパン』に掲載された懐かしのエッセー「トムヤムクンを召し上がれ バンコク生活記⑪」の一部を、特別にBlessed Lifeでお届けします!
筆者のアルンローッゴーソン真理子さんは、6500双のタイ日家庭です。
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タイ在住20年になりますが、その間、何度かデモやクーデターが起こりました。しかし去年(2013年)11月から始まった反政府派のデモほど、身近に危機を感じたことはありません。
ただ、国の緊急事態でも「微笑みの国タイ」と言われるだけあって、タイ人の笑顔は一向に消えることはないのです。日常生活でも「何で今、このタイミングで笑うの?」と不思議に思うことはしょっちゅうですが、デモの最中でもいっぱいありました。
まず、反政府派のDデーのこと。民主記念塔前など数か所の拠点にステージが設置され、そのようすを中継していました。
ちょうどその日、私は体不調で仕事を休み、自宅で中継を見ていました。すると太鼓部隊が登場し、カッコいい振り付けで会場を盛り上げているのです。完全にお祭りムードです。太鼓のドンドンという響きが人間の魂を揺さぶるというか、士気を高めるような感覚でした。
さらに女性のドラマーがクローズアップされると、満面の笑みで太鼓を打っているのです。やっぱりデモにも笑顔は欠かせないのかと感心しました。
翌日出勤すると、「具合は良くなりましたか?」と聞かれるのではなく、「真理子さんは昨日、民主記念塔に行ったに違いないと、皆で噂してたんですよ〜ん」と笑顔で言われ、力が抜けました。ふだん、正義感の強い私は、間違ったことをしたり言ったりする人を見ると、鼻息を荒くしているので、そう思われたようです。
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2月2日の総選挙前には、投票放棄を呼び掛けるデモ隊がバンコクの中心街を行進しているのを見かけました。先導車には生バンドが乗っていて、歌あり踊りありのパフォーマンスに、タイ語が分からなければ、お祭りにも見えるだろうなと思いました。
また同日、日本人がよく行くスクムビット通りの大手デパート前を歩いていたら、報道陣がデモのようすをビデオ撮りしていました。いつもより人だかりができていたので気になり、その視線の先を覗いてみたら、タイ国旗を持った猿がデモ隊を応援していたのです。
「やっぱりお祭りだ。だってお祭りに猿は付きもの」などと、つぶやきながらも猿に同情しました。さらに、何やらチップをもらっていたので唖然としました。
日本人である私のデモのイメージは、鉢巻きをして眉間にシワを寄せ、「オーッ」という掛け声とともに握りこぶしを挙げるというものでした。でも、ここでは「我々はタイを愛する」というコンセプトで、タイ国旗をモチーフにしたデモグッズまで販売し、それらを身に着けて大行進しています。
しかし、今回はお祭りモードではいられないようです。デモの集会付近を歩いていた子供たちが、爆殺事件に巻き込まれ犠牲になったとニュースで流れました。
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職場のある女医さんは反政府派、ご主人は軍隊の幹部なので、家庭では一切政治的な話はしないとのこと。社内、家庭内で思想が違えば、どこで息抜きができるのでしょう。ちょっとでも言葉を間違えたなら、その場で〝炎上〟しかねません。
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(この記事は、『トゥデイズ・ワールド ジャパン』2014年4月号に掲載されたものです)