神様はいつも見ている 37
~小説・K氏の心霊体験記~

徳永 誠

 小説・K氏の心霊体験記「神様はいつも見ている」をお届けします(毎週火曜日22時配信予定)。
 世界平和統一家庭連合の教会員、K氏の心霊体験を小説化したものです。一部事実に基づいていますが、フィクションとしてお楽しみください。同小説は、主人公K氏の一人称で描かれています。

第6部 霊界解放の道
4.「この恩は必ず返す」

 「私はかつてこの雪岳山(ソラクサン)で、修行をしていた僧侶です。真理を求めて山にこもり、滝行をし、山道を駆け、神仏の加護を願いながら読経をして毎日を過ごしていました」

 その声に偽りの響きはなかった。
 そして、その霊は自分の人生、歩んできた道について滔々(とうとう)と語った。

 その人物は、どうやら朝鮮半島の古代、三国時代の新羅の僧侶のようだ。
 幼い頃は農民の子であったが、戦乱のために家族と離れ離れになり、孤児となって各地をさまよっていた時に雪岳山の僧に助けられ、その縁で出家したという。

 その寺では多くの孤児たちが養われていたが、生活は食べる物にも事欠くような状態だった。

 貧しくはあったが、その頃は平穏と平和を感じる時代でもあった。

 だがその平穏な日々は三国時代の終わりとともに破られることになる。至る所に戦火から逃れようとする避難民があふれたからである。
 ある者は北に向かい、ある者は南へ下った。どこにも行けず、山に逃げる者も少なくなかった。

 雪岳山にも避難民が増え、同時に山賊や盗賊が横行し、彼らを襲って殺害し財物を奪った。
 血にまみれた死体が山や谷に満ち、それを狙う山犬やオオカミ、虎たちが山々にうごめいた。人々は獣たちの遠吠(ぼ)えにおびえた。

 闇夜には、徘徊(はいかい)するオオカミたちのいくつもの赤い眼が、あばら家のような寺の隙間に光を放っていた。
 時に幼い者たちは身を隠していた場所から引き出され、森の奥に連れ去られた。

 「地獄絵図を見るようでした。しかし、地獄はそれで終わりませんでした」

 その後も兵士たちが山に入ってきては罪のない人々を殺害し、横暴な振る舞いを繰り返した。
 逃れようとして深山の谷間に滑落して死んだ者も少なくなかった。

 戦が終わっても、現世の苦しみから逃れようと入山し、出家する者が後を絶たなかったという。

 「この山は聖なる山ですが、同時に多くの死者、成仏できない修行者や避難民、敗亡の兵士たちの霊がさまよっています。ここは呪縛された霊たちの牢獄なのです。その怨嗟(えんさ)の声が風となり、雨となって、山全体に染み込んでいるのです」

 私は体の震えが止まらなかった。
 僧侶は言う。

  「ここには無数の霊たちがとどまっているのです」

 「それで、私にどうしてほしいと?」

 私は反射的に口にしていた。

 「あなたは、霊たちの恨みを解くことのできる霊界の門をご存じでしょう」

 「霊界の門ですか?」

 「そこに連れていってほしいのです」

 僧侶はその言葉を何度となく繰り返した。

 霊界の門とは、統一教会(現・家庭連合)の聖地である清平の修錬苑に違いない。

 しかしなぜ、日本人の私に助けを求めるのか。私は率直に尋ねた。

 「あなたは日本人だけれども、日本人ではない」

 私がその意味を解する間もなく、僧侶はまた繰り返す。

 「霊たちをそこに連れていってはくれまいか」

 「自分たちで行けばいいのではないか…」

 私は心につぶやいた。

 「それはできないのです。私たち霊人は肉体を持っていないので、たとえ近い場所でも行けないのです。誰かの体を借りて移動するか、そこにいる人に呼ばれない限り、時空を超えることができません。しかも霊人を運ぶことができる能力と性質を持った人間と出会わない限りそれは不可能なことなのです。そして何より、そのことが可能となる時というものがあるのです。ここにいる霊の中には何千年も待っていた者もいます。あなたは日本人だが、われわれを霊界の門に連れていくことのできる資質を持った人なのです。どうか私たちを救ってください」

 その声と共に、数万人、それ以上の霊人たち、何十万もの霊の声が全天地に満ちた。

 私は、観念した。
 おそらく、全てはずっと前から予定されていたことなのだ。

 「分かりました。私にできることでしたら、お受けしましょう」

 次の瞬間、全天地が霊動し、稲光が走った。

 「日本のおかたよ、ありがとう。感謝する。この恩は必ず返す。私たち一人一人は小さな力のない者たちだが、受けた恩を決して忘れはしない」

 帰国後、私は何度も清平を訪ね、数十万とも数えられる霊人たちと共に、霊界の門をくぐり、解怨の儀式に参加するようになったのである。

 霊人たちの救いには、肉体を持った人間が必要なのだ。それが私たち地上に生きる人間の使命であり、責任なのだ。

 肉体を失った霊人たち。霊界の門をくぐらない限り、彼らは永遠に地上と霊界の境でさまよい、地縛霊や浮遊霊となる。そして肉体を持った者たちをして事故や病気、不和や紛争を引き起こす原因となっているのだ。

(続く)

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 次回は、「心に影響を与える霊たち」をお届けします。