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世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

米最高裁判決で中絶禁止容認、中絶権認めた判断覆す

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 今回は、620日から26日までを振り返ります。

 この間、以下のような出来事がありました。

 ロシアが食糧倉庫を破壊とウクライナ軍発表(20日)。EU(欧州連合)、ウクライナを加盟候補国に承認(23日)。米連邦最高裁判決で中絶禁止容認、中絶権認めた判断覆す(24日)。EU首脳会議が開幕(26日)、などです。

 米国の連邦最高裁は624日、衝撃的、歴史的な判決を言い渡しました。

 今回の訴訟は、胎児が一定の発達を遂げた妊娠15週以降の中絶を禁じた南部ミシシッピ州の法律を巡り、州内に一つしかない中絶クリニックが「憲法に反する」と訴えていたものです。

 最高裁の判断は、中絶自体を禁止したわけではありませんが、「憲法上、中絶の権利が保障されているわけではない」と明示し、中絶に関する規制は各州の立法に委ねられるとの判断を下したのです。

▲米連邦最高裁判所

 米国だけでなく、世界の、とりわけ左翼リベラルにとってはとんでもない判決でした。約半世紀ぶりの判例変更であり、世界中のメディアは、今後米国をさらに分断することになると報じています。

 「約半世紀ぶりの判例変更」の意味を説明してみます。
 1973年、米国最高裁は国家から個人の行動が制約を受けないプライバシー権に、中絶を選ぶかどうかの選択が含まれると判断しました。子供を産むか産まないかの権利は女性自身にあるというのです。

 すなわち、胎児が子宮外で生存できるようになるまでは中絶は認められるとしました。そして現在の医療水準で、その基準は「妊娠22週から24週ごろより前」とされていたのです。

 このたびの最高裁判決により、「73年判決」が破棄されました。規制の在り方は各州に委ねられることになります。
 中絶が憲法で保障された権利ではなくなったことで、全米50州のうち26州で中絶を禁じたり、極めて厳しく規制したりする可能性が指摘されています。

 マルクス思想を原点とする左翼リベラル(文化共産主義者)にとってはとんでもない最高裁判決が出されたことになり、「同性婚容認の憲法判断」に対しても影響が及ぶことになります。

 彼らはキリスト教の価値観が女性差別の根本にあるとして、女性の性の自己決定権の確立を主張してきました。
 いつどこで誰と性的関係を持つのか持たないのか、子供を産むのか産まないのかの決定権などは女性自身にあるというものです。
 キリスト教的価値観はこれまで文化共産主義者によって攻撃され続けてきたのです。

 最高裁判事で保守派の一人であるクラレンス・トーマス判事は判決の中で、同性婚を合憲と認めた最高裁の判断について再考する必要性も示唆しています。