2022.04.11 17:00
コラム・週刊Blessed Life 212
プーチン政権はどうなるのか
新海 一朗
2022年2月24日、プーチン大統領はウクライナ侵攻作戦を発動、ロシア軍は国境を超えて全面侵攻を開始しました。これはプーチン大統領にとって、万死に値する愚行となりました。
プーチンはなぜ、不合理で不条理なウクライナ全面侵攻に踏み切ったのでしょうか。
今回は、プーチンのロシアが今後どうなるのかについて考えてみたいと思います。
プーチン大統領の誕生は、2000年3月の大統領選挙によって当選を果たしたことからスタートしました。
プーチン大統領誕生の前後から、ロシアのマスコミは「強いロシア」を前面に打ち出したロシア国益論が台頭します。
それは歴史的な認識に立つもので、ロシア帝国を「第三ローマ論」で議論する16世紀の概念でした。
「第一のローマ」とは、「ローマ帝国」そのものであり、「第二のローマ」は「ビザンティン帝国」、「第三のローマ」が「モスクワ」であるという理論です。
このような理論を、ロシア正教の神学者が考え出しました。
イワン雷帝(イワン4世、1530~1584)は、雷帝(グローズヌィ)と称せられるほど過酷な専制政治を行いましたが、頭脳明晰(めいせき)、有能な統治能力を発揮します。
彼は自己の帝国と帝位の正当性を求め、神学者たちが考え出した「第三ローマ論」に乗っかります。
プーチン大統領もイワン雷帝のようですが、彼の強い統治力の源泉は何かと言えば、それはロシア産石油と天然ガスでした。
レニングラード大学(現・サンクトペテルブルク大学)の卒業論文に、天然資源の国家統制が重要であることを書いたほどです。彼はそのことを実行に移しました。
大統領就任後、オリガルヒ(新興財閥)に搾取されていた天然資源を、天然ガスは「ガスプロム」に、石油は「ロスネフチ」に変貌させます。
現在、ガスプロムは世界最大のガス会社、ロスネフチは世界最大の石油会社に成長しています。
これらの大企業が生み出す富が、プーチン大統領にとって「力の源泉」となっています。イワン雷帝の君臨です。
しかし現在、プーチン周辺では側近のプーチン離れが加速しています。
まず政権中枢から、アナトリー・チュバイス大統領特別代表が辞任して、ロシアを去りました。
彼は、無名のプーチンをレニングラードからクレムリンへと導いた大恩人です。彼の“引き”がなければ、現在のプーチンはありませんでした。その恩人がウクライナ戦争に反対して辞任したのです。
ロシア中央銀行総裁のエリヴィラ・ナビウリナも辞表を提出しましたが、プーチンはこれを受理していません。
彼女は西側金融界から信頼されている数少ないロシア高官の一人です。彼女が辞任すれば、ロシア金融界は崩壊します。
アルカジー・ドボルコビッチ元副首相も政府系スコルコボ財団総裁を辞任しました。
会計検査院総裁のアレクセイ・クドリンの去就も注目されています。彼は財務相と副首相を務めたロシア金融界の大物です。
プーチンのウクライナ侵攻の目的は、当初、ウクライナに傀儡(かいらい)政権樹立と「限定的作戦」によるドンバス地域の完全制圧だった可能性が考えられます。
そしてそれを早期に成功裏に導くために、首都キーウ(キエフ)などに対して全面侵攻し、ロシアの傀儡政権を建てることを目論んだ。しかしウクライナ軍の思わぬ抵抗を受け、キーウ制圧を断念し、周辺から撤退せざるを得なくなり、プーチン大統領はウクライナ侵攻成功の体面を繕うために、傀儡政権樹立を断念しドンバス地域の完全制圧に注力するようになったと、軍事専門家らは分析しています。
プーチン大統領が当初描いていた野望、電撃作戦による短期決戦、ウクライナ制圧構想、すなわち“プーチンの戦争”は挫折しました。
今回の軍事侵攻は、もしかしたら、「プーチン時代の終わりの始まり」になるかもしれません。
ロシアはプーチン大統領の所有物ではありません。一人の統治者です。彼はロシア国家の信用を失墜させ、ロシアの歴史に最大の汚点を残す侵略者になってしまいました。
プーチン側近の治安関係者と情報関係者の間に対立が生まれているとのうわさもあり、今後、本人の失脚もあり得るかもしれません。
そうなれば、今回のウクライナ軍事侵攻は、プーチン・ロシアの自壊作用につながっていくことも考えられます。