青少年事情と教育を考える 188
「夫婦のハーモニー」が見える家庭

ナビゲーター:中田 孝誠

 前回に続いて、「父性」と「母性」から考えてみたいと思います。

 最近は、父性や母性という言葉を使いにくい風潮があります。性別役割を連想させ、母親だけに子育てを押し付けるといった意味合いで批判する意見もあります。

 もちろん、子育ては父親と母親が共に行うものです。
 ただ、臨床の現場で日々親子と向き合う医療の専門家などは、父性と母性、あるいは父親と母親がおのおの担っている役割の重要性を述べています。

 例えば、児童精神科医として40年以上、多くの親子と接してきた佐々木正美氏は、子供が社会的存在として育つためには家庭に母性的なものと父性的なものの両方が必要だと語っています。

 母性というのは「家庭の中で子どもや家族を受容、許容、承認する力」で、「そのままでいいよという安らぎ、憩い、くつろぎの体験を充分にさせてやるもの」です。

 一方、父性は「子どもの成長にしたがって、さまざまな規律、約束、義務、努力、緊張といったことを教え」、「約束を破ったり、努力を怠ったりすれば、叱られたり罰せられたりすると教える」ものです。

 そしてポイントは、母性と父性は母親と父親がおのおの単独で営むものではなく、夫婦が協調することで優れた働きができると佐々木氏は強調しています(仮に一人親でも、母性と父性の働きを一人で担うことができれば子供は健全に育つと佐々木氏は述べています)。それは育児の孤立化から母子を守ることでもあります。

 やはり児童精神科医の渡辺久子氏は、思春期の子供に問題行動があった場合、その親に「これは社会に一つの人格を生み出すための『心の陣痛』と思いましょう、と励ます」そうです。
 その際、親の役割を強化し、父母が一枚岩となってわが子の本音と向き合うこと、わが子の攻撃的な言動と苦しみを肌で受けとめることが必要だと記しています。

 渡辺氏はまた、父母がお互いを思いやる姿勢、「夫婦のハーモニー」が見える家庭であれば子供は大丈夫だとも述べています。

 父母の仲が良くなることで子供の引きこもりなどが改善したという事例は少なくありません。夫婦の和やかさ、仲良く愛し合う雰囲気が子供に伝わり、将来、良き家庭をつくることができるというわけです。

〈参考〉
*佐々木正美著、『はじまりは愛着から』、福音館
フランシス・ジェンセン他著、渡辺久子解説、『10代の脳』、文藝春秋