青少年事情と教育を考える 187
父親らしさ母親らしさ、親心とは

ナビゲーター:中田 孝誠

 小学4年生だった栗原心愛(みあ)さん(当時10歳)が父親から虐待を受けて亡くなった事件から3年がたちました。この事件は社会に大きな衝撃を与えましたが、現在も虐待は後を絶ちません。

 報道によると、父親の勇一郎受刑者は、「父親は無条件に尊敬されるものだと思い込み」、自分の虐待行為を「厳しいしつけ」と考えていたと語っています(1月24日 JIJI.COM時事通信社)。
 同受刑者が本当にそう思っていたのかは分かりませんが、父親が本当の意味の「父親」になれなかったのは確かでしょう。

 父性と母性、あるいは親心と言ってもいいでしょう。虐待の問題は、子育てを通して育つ親心を育てることができなかった結果だとも言えます。
 なぜ親心が育たないのか。一般的に虐待や不適切な養育の背景の一つとして指摘されるのは、本連載でもたびたび取り上げた「愛着(アタッチメント)」の問題です。

 親自身が幼少期に虐待を受けるなどして親との関係が不安定な状況で育つと、愛着が不十分なまま結婚後に配偶者との関係に葛藤したり、子供への接し方が分からず虐待につながったりするような問題が起こり得るといわれています。

 不適切な養育が子供に及ぼす影響について研究している友田明美・福井大学教授は、親に対して、子供への関わり方を学ぶペアレント・トレーニングなどの支援を行う必要があると述べています。親自身に愛着不足の過去がある可能性も考えて、子育ての基本を学ぶ体験や支援を行うわけです。

 もう一つ。
 大阪医科大学の研究では、男子学生が保育園で3カ月の育児体験をすると、幼児たちの反応に大きな喜びを感じるようになり、自分も早く父親になりたいと思うようになりました。
 学生たちの脳の変化を調べると、子供に愛着を感じる部分など脳の複数の場所が新たに活動するようになっていました。

 「男性の脳も、育児を経験することで、わが子をいとおしいという気持ちなど、父性のスイッチが入る」ことが分かったわけです(『ママたちが非常事態!?』ポプラ社)。

 次回もこのテーマについて考えたいと思います。