夫婦愛を育む 177
一緒に怒る

ナビゲーター:橘 幸世

 わが家の道路の斜め向かいに簡易郵便局があり、重宝しています。
 年賀はがきを買い足しに行くと、あいにく先客がいました。中は幅1メートルほどの狭さですので、密にならないようドアを開けたままにして外で順番を待っていました。

 結構時間がかかっています。そのうち、年配の男性がシニアカーでやってきて、中に入って奥に一つだけある椅子に座りました。
 ようやく先の人が終わり、はがきを買えると思ったら、後から来た男性が涼しい顔をして窓口に立ってしまいました。

 驚き、あきれて腹が立ちました。お年寄りの無謀な行動は時々メディアでも話題になっていますし、レジで割り込みをされたこともありましたが、この時は自分でも意外なほどに腹立たしさを覚えました(おまけにこのご老人の要件もなかなか終わらない!)。

 疲れていたせいもあるでしょう。これだけ済ませたら休憩しよう、と少し無理をしていたのです。

 夕食時、主人にそのことを話すと、「それはひどいね!」と言ってくれました。実は内心「お母さん、そのくらいのことは大目に見てあげようよ。お年寄りなんだし。そんなことに相対しちゃだめだよ」みたいな言葉が返ってくるかな、と思いながら話していたのです。

 アンフェアなことをされた上に、怒ったことに対してみ言で正され(裁かれ)たら、ある意味踏んだり蹴ったりです。
 でも、「それはひどいね!」のひと言でスッキリしました。それ以上文句を言い続けることもなく、それでおしまい。

 何の時だったか忘れましたが、「人が怒っているのを見ると、(同じ対象に対する)自分自身の怒りがそれほど強くならないからね」といった内容のことを娘が言っていました。過去に自分にも経験があったので、妙に納得しました。

 知人から無神経なことを言われて傷ついた時、話を聞いてくれた友人がものすごく怒ったのです。
 「ひどい! その人はどういうつもりでそんなことを言うの?!…」
 その憤慨ぶりに私の方が「そこまで怒らなくても…」と思ったほどです。慰められて、私自身の怒りはずいぶん静まりました。

 郵便局の一件の二日後、新聞にタイムリーな記事が載りました。「グチコレ」という活動をしている大学生たちについてです。
「グチ」は「愚痴」、「コレ」は「コレクション」、収集の意味です。仏教を学ぶ学生たちが、道行く人たちから不満を聞き取ります。

 聞くだけで助言はしません。個人が特定されない表現で内容をネットで公開しているそうです。
 「否定的な印象が強い愚痴を本音と前向きに捉え、気軽に話せる場や共感できる機会を作りたい」との狙いで2012年から続けているそうです。

 ネガティブなことを聞いて、気持ちがそれに相対し、いわゆる悪の授受作用をしてはいけませんが、相手の負の感情を否定して正そうとするのは賢明ではないかもしれません。
 受け止めてもらってスッキリしたら、人はちゃんと良い方向に向かうようになっていると思うのです。

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