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世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

フランス上院議員団の台湾訪問と中国の焦り

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 今回は、10月4日から10日までを振り返ります。

 この間、以下のような出来事がありました。
 岸田文雄内閣発足(4日)。中国軍機56機、台湾防空識別圏に進入(4日)。フランス(仏)の上院議員団が台湾を訪問(6日)。米大統領支持4割下回る~米大調査(6日)。米CIA(中央情報局)、中国専門の新組織を設立(7日)、などです。

 フランスの上院議員団による台湾訪問が10月6日から10日まで行われました。
 アラン・リシャール元国防相を中心とする訪問団で、訪問の目的は緊迫する地域情勢や台仏間協力などについて話し合うためでした。

 最近、急速に欧州と台湾との関係強化が進んでいます。
 今回の訪問は、主要国フランスの動きだけに、その影響力は大きいものがあります。事前に情報を得ていた中国当局は、「一つの中国原則に反する」として強く反対、抗議しましたが、それを越えて実現したのです。

 リシャール氏はこれまで、中国が地域を不安定化させる軍事的な動きを見せていることを指摘し、中国軍による台湾への圧力強化を強く批判してきました。

 氏は、仏上院の台湾友好議員連盟の代表であり、5月に台湾が世界保健機関(WHO)などの国際組織に参加することを支持する初の上院決議に導いています。訪台は今回で3度目。訪問中の発言で、台湾を「国」と呼んでいます。

 蔡英文総統は会談で、「圧力を恐れず3度目の訪台をしたことに感動した。今回の訪問には並外れた意義があり、台湾に対する最大の支持となる」と語り、感謝の意を表しています。

 昨年(2020年)来、EU(欧州連合)各国の台湾への接近が目立ちます。主な動きを列記してみたいと思います。

 昨年8月、9月にチェコの上院議長が台湾を訪問し立法院で演説、今年に入り、5月に日本とEU首脳が「台湾海峡の平和と安定」を強調する声明を公表、6月のG7首脳会議が初めて「台湾海峡の平和と安定の重要性」を首脳宣言に明記、同月にリトアニアが台湾に新型コロナウイルスワクチン2万回分提供を表明、翌7月リトアニアが台湾名での代表事務所設置に合意、9月16日にEUが台湾との関係強化を目指す「インド太平洋戦略」を発表し台湾との貿易や投資の強化を表明、同月に英国の海軍フリゲート艦が台湾海峡を通過、そして10月に仏上院議員団が訪台したのです。

 この大きな変化の原因となった内容を挙げてみます。
 何よりも人権問題です。香港や新疆(シンチャン)ウイグル自治区での暴挙で中国批判が一気に高まりました。
 巨大経済圏構想「一帯一路」による投資を受け入れたものの、期待したほどの経済効果が出なかっただけでなく、新型コロナ禍にあって中国が勢力圏の拡大を図るような動きを見せたことへの警戒感も高まりました。

 特にマクロン仏政権は中国の覇権的な動きを自国の安全保障上の課題として見ているのです。南太平洋のニューカレドニアなどに領土を持っており、地域の安定を守る上でも台湾と協調することの意味は大きく、また、台湾企業が半導体供給の大きなシェアを握っており、台湾支援の姿勢を示すことは国益にかなうと判断したと見られます。

 欧州諸国の台湾接近が中国に与える影響は極めて大きいものがあります。包囲網は確実に広がっています。習近平政権の焦りが台湾海峡に危機を生む要因となり得ることも想定しておく必要があります。