2021.10.05 12:00
世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~
自民党総裁選で明確になった二つのこと
渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)
今回は、9月27日から10月3日までを振り返ります。
この間、以下のような出来事がありました。
北朝鮮、最高人民会議開催(28日から)。自由民主党総裁選で岸田文雄新総裁が誕生(29日)。韓国、言論仲裁法改正を先送り(29日)。台湾防空識別圏に中国軍機、連日最多更新(10月2日)。米国が中国の対台湾圧力の中止を促す(3日)、などです。
自民党総裁選が9月17日告示、29日投開票の日程で行われ、岸田文雄氏(64歳)が河野太郎氏(58歳)に「決選投票」で圧勝しました。岸田氏は第27代総裁となり、10月4日には第100代首相に任命されました。
この総裁選で自民党が抱える二つの、それも深刻な懸念が浮き彫りになりました。
一つは、自民党のリベラル化(左傾化の意味)。もう一つは、「党員・党友票」の実態への懸念です。いずれも自民党の党としての根幹に関わることなのです。
総裁選直前まで各種の世論調査で河野氏が支持率でトップを走り続けました。
河野氏の政治理念はまさにリベラルです。選択的夫婦別姓賛成、同性婚合法化賛成、女系天皇容認などを明言しているのです。
立憲民主党と変わらない、それ以上のリベラル性と言っても過言ではありません。もし河野氏が総裁、総理になったら党内が混乱し、結果としてリベラル化がさらに進むことになるでしょう。
これが第一の懸念なのです。
しかし国民人気トップの河野氏は「完敗」しました。期待した党員・党友票は169票にとどまり、全体382票の約44%でした。50%に達しなかったのです。そしてより厳しかったのは議員票で86票。岸田氏の146票はもちろん114票の高市氏にも負けたのです。
理由の一つは、今の自民党の党内状況で、石破茂氏の支援が裏目に出たことが挙げられます。
最大派閥・細田派の事実上の中心である安倍氏、河野氏が所属する派閥の中心である麻生氏は石破氏が支援する候補者を容認することはできないのです。両人とも政権を担当していた時、石破氏に後ろから弾を打たれ、引きずり降ろし工作にあった経験があるからです。
そして河野氏が掲げた政策も摩擦を引き起こしました。
核燃料サイクルの見直しに触れ、推進派を刺激し、最低限の年金額を保障する年金改革案を主張して曖昧な財源問題が批判されました。これまで党内でもめてきた話を短期決戦の総裁選で話すべきではないのに、正面から論戦に臨もうとしたのです。
党内の若手の不満もすくえず支持を増やすことができませんでした。若手との意見交換の場で、「イージス・アショア設置」の突然の撤回に関連して「政策の主導権が官邸に偏っている」との指摘が出ると、「部会でギャーギャーやっている」などと党内議論を揶揄(やゆ)するような発言をし、後に謝罪に追い込まれてしまいました。
安全保障面での曖昧さも目立ちました。弾道ミサイルを相手国領域内で阻止する敵基地攻撃能力の保有に関しては、「昭和の時代の概念だ」「ピント外れ」「敵基地ナントカ能力」と揶揄する一方で、自身は「日米同盟でいかに抑止力を高めていくかだ」と述べるにとどめました。
そして河野家のファミリー企業、日本端子が中国でも事業を展開しており、実弟が社長で河野氏自身も株主であることから、対中政策への影響が懸念されました。
安倍氏は今回、前総務相の高市早苗氏を勝利させるために本腰を入れました。しかし同時に決選投票となった場合の2位、3位連合を見据えながらの闘いでした。
河野陣営に加勢した細田派の若手議員には、次期衆院選での応援の有無までちらつかせて支援を切り替えるように求め、1回目で河野氏が過半数を獲得する道に立ちはだかったのです。
高市氏の善戦には目を見張るものがありました。準備された自民党らしい政策(憲法改正、安保体制強化、男系天皇の継続、選択的夫婦別姓や同性婚合法化の否定など)がぶれることなく打ち出されたのです。そして何よりも安倍氏の固い継続的な支持がありました。
第二の懸念は「党員・党友票」です。
自民党支持者ではない「党員・党友」の存在を考慮しなければならないのです。
党員獲得の方法にも問題があります。会社として組織ごと入っている場合もあり、「自分でお金を払って入っている人はほとんどいない」という現実も散見します。
高市氏に対する党員・党友票の少なさに違和感を持った人は少なくなかったのです。
これからの課題は、「日本が日本でなくなる」危機に内外で直面することです。内にあっては左翼リベラルの浸透、外にあっては中国など力による現状変更勢力の覇権的行動を阻止することです。そのためには、自民党の再生が必要なのです。