親育て子育て 12
祖父母がいることのよさ

(APTF『真の家庭』182号[2013年12月]より)

 もう一度皆さまにぜひ読んでいただきたい、編集部イチオシ!なコンテンツをご紹介。
 「親育て子育て」を毎週木曜日配信(予定)でお届けします。

ジャーナリスト 石田 香

人生の経験を積んできた祖父母は子供に大切なことを教えてくれる

無条件でかわいい

 「孫は無条件でかわいい」そうですが、残念ながら私はまだ孫がいないので分かりません。子供も小さいころは十分にかわいいのですが、それ以上に親としての責任感があるので、「無条件ではない」ということなのでしょう。

 祖父母と同居していたり、近くにいたりすると、子供の世話や送迎を頼めるので、お母さんとしては大助かりです。でも、祖父母の効用はそれだけではありません。核家族で親と子供だけだと、家庭が狭い世界になりがちですが、ゆとりのある祖父母が同居していると、子供にとって苦しいときの逃げ道になります。おじいちゃんに励まされてほっとしたり、おばあちゃんのひと言で勇気づけられたりするのです。まずは、祖父母の出てくる絵本を紹介しましょう。

 『おじいちゃん わすれないよ』(作・ベッテ・ウェステラ、絵・ハルメン・ファン・ストラーテン、訳・野坂悦子、金の星社)は、大好きな祖父の死に直面した少年ヨーストの、揺れる心情を描いたオランダの絵本です。

 葬式の日、ヨーストには、おじいちゃんと海賊ごっこをしたり、砂浜で埋め合いっこをしたりして遊んだ、数々の楽しい思い出がよみがえってきます。悲しい気持ちを抑えることができない様子を見たお母さんは、おじいちゃんの赤いハンカチをヨーストに渡します。

 おじいちゃんはヨーストとの約束を忘れないように、いつもハンカチに結び目を作っていました。おじいちゃんが死んでから、ヨーストはおじいちゃんを忘れないために、ハンカチを結ぶようになります。

 大好きな人がいなくなる体験は、子供にとっては受け入れがたいものです。絵本では、ヨーストのつらい気持ちが忠実に描かれているので、同じような体験をした子供たちは、自分の気持ちを整理する手掛かりになります。愛する人の死を受け入れることは、お母さんの手助けはあったとしても、最後には自分でしなければなりません。自分なりにおじいさんの死と向き合い、乗り越える道を見つけるしかないのです。でも、ヨーストは、そのつらい体験を通して、人間として大きく成長していきます。

▲『おじいちゃん わすれないよ』(金の星社)

だいじょうぶだよ

 『だいじょうぶだいじょうぶ』(作・絵・いとうひろし、講談社)は、小さなぼくが不安な気持ちになると、いつもおまじないの言葉で助けてくれたおじいちゃんの話です。

 ぼくとおじいちゃんは毎日のように散歩を楽しんでいました。家の近くをのんびり歩くだけの散歩でしたが、ぼくの世界はどんどんひろがり、新しい発見や楽しい出会いがあります。

 でも、困ったことや怖いことにも出遭うようになり、なんだかこのまま大きくなれそうにないと思うこともありました。そのたびにおじいちゃんはぼくの手を握り、「だいじょうぶ、だいじょうぶ」とおまじないのようにつぶやくのでした。

 私の祖父は背の高いスマートな人で、いつも背広姿に中折れ帽を被り、自転車に乗っていました。田舎でそんな恰好をしている人は少なかったと思います。祖父は農業をしながら、博労という牛の売買の仕事をしていました。昭和30年代くらいまで、農家は耕作と堆肥づくりのため牛を飼っていました。子牛を買ってきて農家に渡し、成長すると市場に連れて行って売るのが祖父の仕事です。博労は一種の情報産業なので、いい恰好をしていたのでしょう。

 中風を患った後、祖父が亡くなったのは私が高校2年の時で、湯かんをした祖父の顔が何とも神々しく、死はこんなにも人を清らかにするものか、と感じたのを覚えています。中風で手足や口が不自由になった祖父を数年間、見ていたからかもしれません。

両親との役割分担を

 農業に忙しい両親の代わりに私を育ててくれたのは祖母で、そのため典型的なおばあちゃんっ子になりました。今から振り返ってみてよかったと思うのは、お寺の日曜学校などに連れて行ってくれたことです。お坊さんの話は分かりませんでしたが、スライドで地獄の絵を見せられたりして、「悪いことをしたら、ああなるのだな」と思ったことが、大人になってからの歯止めになっています。

 夕方になると、祖母と一緒に仏壇の前でお経を上げさせられました。玄関から友達が顔を出し、早く一緒に遊ぼうよと言うのですが、ちゃんとお勤めを終えるまで許してくれませんでした。きついところはあったのですが、伯父さんや伯母さんなど親戚の家に連れて行ってくれるので、祖母が大好きでした。

 赤ちゃんが言葉を覚えていくうえでも、祖父母の役割は大切です。何度も繰り返し、まねをしながら覚えていくので、忙しい両親は付き合い切れない面があります。その点、時間が十分ある祖父母は、いつまでも付き合ってくれます。

 でも、時代の違う祖父母と育児の仕方が異なるため、両親との間で対立が生まれると、子供が混乱してしまいます。三世代同居ゆえの子供の葛藤というのもあるのです。それには大人同士がよく話し合い、互いの役割分担を決めておくことです。あくまでも子育ての主体は両親なので、祖父母は補佐役に徹するようにします。

 私が困ったのは、父親と祖父母が時々けんかした時のことです。夫婦げんかも同じですが、子供はどちらに付いたらいいのか混乱してしまいます。まあ、それも人間としていい訓練なのですが、しなくてもいい体験かもしれません。でも、家族なのですから、表面をとりつくろうよりは、本音を丸出しにする部分もあっていいのです。