世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

日韓首脳会談、事前協議で理解深まるも見送り

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 今回は、7月19日から25日までを振り返ります。

 この間、以下のような出来事がありました。
 日韓首脳会談見送り、韓国政府が発表(19日)。米、中国人4人を起訴~世界的なサイバー攻撃に関与と非難(19日)。中国、WHO(世界保健機関)の第2弾コロナ調査拒否(22日)。中国、ロス前米商務長官らに報復 「反外国制裁法」初適用(23日)。米議員ら、北京五輪延期などIOC(国際オリンピック委員会)に要求(23日)、などです。

 韓国大統領府は7月19日、東京五輪の開会式に合わせた文在寅大統領の訪日を見送ると発表しました。「(日韓首脳)会談の成果が見込めないから」との判断です。

 日韓首脳会談は2019年12月以来、途絶えています。
 文大統領や徐薫国家安保室長は訪日に前向きでした。バイデン政権からも対日関係改善を求められていたこともあります。しかし文氏側近としては、訪日が失敗だったとして世論の批判を浴びる展開を予想したということでしょう。

 韓国政府側が首脳会談に期待した内容としては、日本政府による対韓輸出管理の厳格化措置の解除の判断があります。この問題で成果が上がれば、元徴用工問題などで日本側に一定程度歩み寄っても、韓国内世論の反発を抑えられる可能性があると考えていたのでしょう。

 しかし日本側は、まず韓国側が国際法を順守することが先決、とのこれまでの立場を堅持し、変えませんでした。結局19日になって、輸出管理問題で日本側の譲歩が見込めないと最終的に判断して首脳会談を断念したと見られます。

 日本政府関係者によれば、韓国側からは、日本が対韓輸出規制で譲歩すれば、独自の機密情報を互いに融通する「日韓GSOMIA」を正常化するという提案があったといいます。

 韓国が2019年に破棄を一度通告し、米国の仲介でかろうじて維持されている協定ですが、その提案に対して日本側は、「全く別物」(首相周辺)と提案に乗ることはなかったのです。

 さらに韓国側は、「諸般の状況を総合的に判断した」とも説明しています。
 「諸般の状況」として、在韓日本大使館の相馬弘尚総括公使が7月16日、文氏の対日姿勢を不適切な表現(性的用語を用いた表現)で批判した問題も、判断に影響したものと思われます。

 相馬総括公使の発言の波紋が韓国で広がり、韓国側の態度が一気に硬化した要因となっていると見られます。
 加藤勝信官房長官は19日の記者会見で、文大統領来日を巡り在韓日本大使館の相馬総括公使が韓国メディアとの懇談で問題発言をしたとの認識を示し、「外交官として極めて不適切で大変遺憾だ」と述べました。

 しかしそれでも政府高官は、「18日までは9割方、会談は実現する方向だったのに19日なって空気が一変した」と述べています。
 結局、東京2020オリンピックの開会式には、韓国政府代表として黄煕文化体育観光相が出席しました。

 首脳会談について、日韓関係の打開策を韓国が示さない限り首脳会談を急ぐ必要はないとの声が国内にあります。

 それは違うと思います。両国の底流にある相互の不信感を放置すれば難しくなる一方です。互いの主張を擦り合わせて溝を埋める対面での努力は極めて大切であると考えます。

 しかし今回、韓国政府は首脳会談の成果が十分に見込めなかったと説明しながらも、事前協議による一定の相互理解の進展を認めました。当局間で対話を重ねた意義は見いだせたし、大きな意義があると思います。

 さらなる努力に期待したいと思います。