世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

令和3年「防衛白書」の閣議決定

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 今回は、7月12日から18日までを振り返ります。

 この間、以下のような出来事がありました。
 令和3年防衛白書を閣議決定(13日)。日米豪印~中国念頭に最先端技術巡り初会合(13日)。日米英など7カ国〜中国けん制を狙い、豪で共同訓練開始(14日)。米、ウイグル禁輸法案を可決~強制労働絡む全製品に拡大(14日)。中国税関総署、中朝貿易額1~6月8割減と公表(18日)、などです。

 令和3年(2021年)版「防衛白書」が7月13日、閣議決定されました。
 中国、中台関係、米中関係の記述において画期的な白書となっています。
 閣議後、岸信夫防衛相は記者会見で「中台の軍事バランスは全体として中国側に有利な方向に変化し、その差は年々大きくなっている」と述べ、その背景に触れたのです。

 これまでの防衛白書になかった新しい記述が加えられました。
 「台湾を巡る情勢の安定は、わが国の安全保障にとってはもとより、国際社会の安定にとっても重要」であること。「中台間の軍事的緊張が高まる可能性も否定できない」などが、それです。

 昨年の2020年版は、「中国」の節で中台間の軍事バランスの変化を示しながらも、「動向に注目していく必要がある」と記すにとどめていました。
 今年4月に開催された日米首脳会談の共同声明に記された「台湾海峡の平和と安定の重要性」との認識を踏まえた防衛白書となったのです。

 全体の構成も変わりました。
 第一章の「概観」に続く第二章の「諸外国の防衛政策など」第一部で「米国」が11ページ、次に「中国」31ページ、そして新設された「米国と中国との関係」8ページとなっています。

 さらに中国に関しては、今年2月に施行された海警局・海警部隊に外国公船に対する武器使用を認める海警法の問題点を繰り返し記述しており、沖縄・尖閣諸島周辺で領海侵入を繰り返す海警船の活動が「そもそも国際法違反」と指摘。より踏み込んだ表現で批判しています。

 中国は当然、強く反発しています。
 外務省の趙立堅副報道局長は7月13日、記者会見において「台湾は中国の領土であり、台湾問題は完全に中国の内政(問題)」と強調しつつ、白書の内容について「中国内政にひどく干渉し、いわゆる中国の脅威をあおっている。極めて誤った無責任なやり方だ」と怒りをあらわにしました。

 中国人民解放軍は2027年に創設100年を迎えます。その主要な任務は「台湾奪回」です。2023~27年の間に決断、実行するとの可能性があります。
 日本は今、台湾有事の際の米台軍への後方支援や存立危機事態への対応としての自衛隊の行動を準備しておく必要があります。それが平和を保つ抑止力を高めることになるのです。