世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

中国共産党創党100年
始まる鄧小平路線の否定

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 今回は、6月28日から7月4日までを振り返ります。

 この間、以下のような出来事がありました。
中露首脳会談(オンライン)対米結束を誇示(6月28日)。韓国大統領選、尹錫悦・前検事総長出馬へ(29日)。中国共産党創党100周年(7月1日)。中国・王毅外相の講演、米の太平洋戦略に「歴史の後退だ、ゴミ捨て場に一掃を」(3日)。東京都議選、自公過半数届かず(4日)、などです。

 7月1日、午前8時前、習近平主席は共産党最高幹部である政治局常務委員や過去の指導者らを引き連れて天安門の楼上に姿を現しました。
 大歓声が響く中、上空には中国軍のヘリが「100」の字をつくって飛行し、最新鋭ステルス戦闘機「殲20(J-​20)」が轟(ごう)音を立てて編隊飛行したのです。

 これまでの創党記念日式典は、天安門広場の隣の人民大会堂で指導者が演説するのが通例でしたが、今回は100周年、天安門広場で行われました。さらに楼上は建国の父、毛沢東が1949年10月1日に建国を宣言した場所です。習氏が毛沢東に並ぶ指導者であるとの印象を内外にアピールする演出となりました。

 習氏の演説のポイントは以下のとおりです。

◇台湾問題を解決し、祖国の完全な統一を実現することは党の歴史的任務

◇(香港で)国家の安全を維持する法制度を履行する

◇中国軍隊を世界一流の軍隊にする

◇いかなる外来勢力であれ、中国をいじめ、圧迫することは許さない

◇小康(ややゆとりある)社会を全面的に実現した

 習氏の演説で特に会場が沸いた言葉がありました。
 それは「中国をいじめ、圧迫する外部勢力を許さない。14億人の中国人民の血と肉で築いた鋼鉄の長城にぶつかり、血を流す」「先生面した説教は決して受け入れない」と訴えた時でした。
 このように習氏の演説は、中国に対して圧力を強める米国への対抗心を色濃く表したものでした。

 7月1日前から準備された創党100年記念行事の中で特に注目すべきことがありました。
 それは6月28日、祝賀行事の一環として「偉大な道程」と題して上映された歴史演劇です。その内容は、習氏が「新時代」を築いたと位置付けられているのですが、建国の父、毛沢東に並ぶ扱いで、習氏への個人崇拝に明らかに結び付けられている内容なのです。

 さらに北京で開催されている「中国共産党歴史展覧館」での展示方式が関心を呼ぶものとなっていました。
 展示コーナーは、創党された1921年から始まるものですが、①1949年までの革命・建国期 ②1978年までの社会主義建設期 ③2012年までの改革開放期 ④それ以降―、と4期に分類されているのです。

 展示館は広大な面積を有しているにもかかわらず、鄧小平、江沢民、胡錦涛の三指導者を3期に押し込め、1期と2期の中心は毛沢東、4期は習近平が独占しているのです。鄧小平氏の実績を軽視し、毛沢東、習近平両氏を「崇拝」する内容です。

 中国の総人口は来年にも減少に転じる可能性が出てきました。
 今後中国の経済規模が米国を抜いたとしても社会保障負担は重く、実質経済成長率の低下は免れません。

 中国内で先鋭化する格差問題への不満に対処しながら共産党支配を維持しようとすれば、鄧小平路線を否定し、独裁強化・国有企業重視に転換する可能性が高くなってきているのです。
 アリババをはじめとする民間企業への圧力はその兆しと見るべきでしょう。習氏は国内的にも危険な「賭け」に出ているのです。