世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

豪州、対中「一帯一路」協定破棄を表明

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 今回は4月19日から25日までを振り返ります。

 この間、以下のような出来事がありました。
 EU(欧州連合)が対中を念頭にインド太平洋戦略をまとめる(19日)。韓国・ソウル中央地裁、元慰安婦らの訴え却下(21日)。豪州(オーストラリア)政府、南東部ビクトリア州の対中「一帯一路」参加協定を破棄(21日)。米上院外交委、中国対抗法案「2021年の戦略的競争法」を可決(21日)。米大統領がアルメニア人「虐殺」認定(24日)。衆参3選挙、自民全敗(25日)、などです。

 今回は、豪中関係を扱います。
 豪州・ペイン外相は4月21日、南東部ビクトリア州と中国政府が結んだ巨大経済圏構想・「一帯一路」で協力する合意文書を無効にする、と発表しました。

 中国の名指しは避けましたが、中国と対立する連邦政府の方針とそぐわないことをにじませた声明となりました。なお同時に、イラン、シリアと結んだ協定も破棄することとなりました。

 その理由について外相は、「(協定は)豪州の外交政策と矛盾しているか、豪州の外交関係に悪影響を及ぼすと考えている」と説明しました。

 破棄される対中協定は、ビクトリア州政府が2018年、19年に中国側と締結した「一帯一路」に関する覚書と協定です。親中的なアンドリュース州首相(ビクトリア州)が中国からのインフラ投資を見込んで独自に推進したものでした。

 豪政府は昨年8月、州政府や地方自治体、公立大学が、外国政府と結ぶ経済、文化、学術分野の研究について、外務省が内容を審査する方針を発表し、関連する法案が昨年12月に議会で可決成立したのです。

 法律に基づき、政府は1000件以上の協定を調べ、その結果、2018年と19年にビクトリア州が中国と結んだ「一帯一路」で協力する覚書や合意文書のほか、同州がイランとシリアの間に、それぞれ2004年と1999年に結んだ教育関連の協力文書4件を無効にすることとなったのです。

 豪中関係の亀裂は、豪州が2018年8月、安全保障面の懸念からファーウェイを次世代通信網5Gの整備から排除したことから表面化しました。さらに昨年4月には、中国の新型コロナウイルス対応について国際的な調査を要求しました。

 中国は強く反発。豪産の大麦やワイン、牛肉やロブスター、綿花、石炭などの輸入にブレーキを掛ける動きを続けてきました。さらに今年3月下旬、中国商務省が豪州産ワインに対し反ダンピング(不当廉売)の制裁関税を課すことを正式に決定したと発表したのです。

 今回の外務省声明に中国は強く反発しています。汪文斌報道官は4月22日の会見で、「正常な交流や協力を妨害・破壊し、中豪関係と両国の相互信頼を深刻に損なう」と述べ、豪州側に正式に申し入れを行ったと伝えました。さらに「中国側は、さらなる反応を取る権利を保留する」とも述べました。

 豪州は中国の圧力に屈する姿勢は見せていません。クアッド(日米豪印)の連携強化を背景に乗り越えようとしているのです。