コラム・週刊Blessed Life 163
量子情報技術の本格的活用時代へ突入

新海 一朗(コラムニスト)

 量子コンピューターという言葉をよく耳にします。
 そもそも、「量子(quantum)」とは何か。
 光は波動であるとホイヘンス(1629~1695)は言い、ニュートン(1643~1727)は粒子であると言いました。

 その後のいろいろな議論と研究が長い間なされた結果、現在では、「光は波動であり、同時に粒子である」という結論に落ち着いたのです。

 光と同じように、電子や素粒子も波動性と粒子性の二つの性質を持っていることが分かっています。このように、二つの性質、波動性と粒子性を持つ特殊な存在を「量子」と呼びます。

 量子の持つ性質をコンピューターに利用すると、いわゆる「量子コンピューター」と呼ばれる計算機が生まれますが、これが驚異的な優れもので、従来のコンピューターが1024回で行う計算処理を、たったの1回でやってしまいます。超高速の計算能力です。

 量子コンピューターの実用化は、従来のコンピューター(古典コンピューター)との抱き合わせで進んでいくとされます。
 量子コンピューターは超低温の環境と複雑な配線が必要であり、ノートパソコンやスマホのように活用するのは難しいので、クラウドを通じて利用するという形になるだろうというわけです。

 日本では、日立や東芝などが量子コンピューター実用化の最前線に立っています。
 量子技術はこれからの未来社会の基盤となるのは必至であり、「量子暗号通信」など、解読困難とされる量子暗号の活用は、容易にハッカーなどの侵入を許さない情報セキュリティを万全なものにしていくと期待されています。

 すでに東芝は世界で初めてヒトの遺伝情報(ゲノム)の伝送に成功しており、金融機関などに向けた本格的なサービス展開を目指し、2025年までの実現構想を描いています。

 量子情報技術の重要性を認識しているのは、もちろん、アメリカそして欧州や日本ですが、しかしまた、中国も同様であり、中国の野望は量子技術の最先端に立ち、地球と宇宙の両方を完全支配するという途方もない夢を追い掛けています。
 実際、サイバーや宇宙という先端分野で、アメリカと肩を並べ、あるいは追い抜く勢いを見せています。

 2016年、中国は「量子科学衛星」という衛星の打ち上げに成功しました。これにショックを受けたのがアメリカであり、この成功が何を意味するのか、アメリカはそのショックを隠すことができませんでした。

 「量子科学衛星」というのは、量子暗号通信技術を搭載した人工衛星のことです。
 この通信技術は、光子(光の粒子)の性質を利用したもので、いかなる計算機でも解読できず、原理的には、盗聴、傍受など不可能とされる最先端通信システムといわれています。暗号解読不可という喉から手が出るほど欲しい通信システムなのです。

 アメリカ(トランプ政権、当時)のその後の展開を見ると、2019年12月20日に「アメリカ宇宙軍」が創設されたことは意味深長です。もしかしたら、中国の「量子科学衛星」の破壊が目的ではないのかといった疑いまで持ちたくなります。

 量子情報技術は、民生利用の分野では大歓迎ですが、軍事利用になると大変なことになります。盗聴、傍受、ハッキングのできない軍事作戦で、ある日一瞬にして攻撃を受け、壊滅となります。
 量子情報技術の開発の一側面には、実は軍事覇権が隠されているのです。