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家庭力アップ講座 9
2章 心の姿勢④

(APTF『真の家庭』214号[8月]より)

家庭教育アドバイザー
多田 聡夫

(3)思いの電車
 一つの事に集中しようとすれば様々な雑念が入ってきて、かえって集中できなくなります。雑念が心の中に入ってくれば、それは電車のようであり駅に停まってすべての乗客を乗せます。たとえば、私は勉強に集中しないといけないのに、昨日学校で先生に怒られたことを思い出して、勉強に集中できないとか、子供からの暴言を吐かれた母親がそれを忘れることができず、その過去のままでいて、目の前にいる子供を愛せずにいるとか、明日の試験のためにしっかりと勉強をしないといけないのに、明日の試験のことが不安でなかなか今、集中できないというように、私たちはそのような過去や未来という「思いの電車」に乗り続けているのです。

 今すべきことにとどまりしっかりと集中して、積極的に努力しなければならないのに、私たちは過去の経験や、そして未来に対する空想と恐れと不安に、しっかりととらわれてしまっているのです。

 不幸にも、これでは過去を克服することもできず、より良い未来を創造することもできません。問題は、私たちがこのような「思いの電車」に乗っていることなのです。

 過去というのは、「今」生きていることを後で見れば過去となります。ですから、今どのように生きたかが、私達の過去を作り上げているのです。「今」を一生懸命、生きていれば、私にとって過去は有意義なものになるでしょう。また、未来は、今をどのように生きているかによって決定されるのです。今、一生懸命生きていれば、私の未来が、希望ある未来として映るでしょう。

 過去や未来の、どちらの「思いの電車」に乗った場合にも、私たちは、最も重要な場所である「現在」にいないのです。現在という瞬間こそが、私たちには実際的なものなのです。時間は常に「今」があるだけです。もしこのまま「思いの電車」に乗り続けて行くならば、その終着駅に、幸福ではなく不幸という駅に着いてしまうでしょう。

 「思いの電車」は、過去や未来に対して、これはできないとか、恐れ、ねたみ、怒り、憎しみ、不安など、多様なものをたくさん乗せることをいいます。そして、今、集中しなければならない現在に集中できなくなっていくのです。不幸にも、このような考え方が私たちの未来を決定するのです。そして、このことに気が付かないまま、過去や未来の「思いの電車」に乗り続けているのです。

 しかし、絶望してはいけません。その騒音はすぐに静かになるでしょう。

 「思いの電車」を終えることができます。では、どうしたら「思いの電車」から降りることができるのでしょうか。

 まず私達は、過去や未来の「思いの電車」に乗っていることに、気づいて、「自覚」する必要があるのです。今、集中できない理由は、「思いの電車」に乗ってしまっているからだと、はっきり「自覚」することです。

 自分の問題点が「思いの電車」だと自覚することができれば、今度は、その「思いの電車」に名前をつけてみるのです。たとえば、「葛藤の電車」、「怒りが出る電車」、「自信が無くなる電車」等と名前をつけるのです。心の中ではっきりとその名前を言ってみてください。余りにも「思いの電車」が多い場合や次々とやってくる場合には、まとめて「思いの電車」と言ってみてください。

 そして、「思いの電車よ。私は乗らないから、早く過ぎ去れ」とはっきりと意思表示をしてみるのです。それを何度も何度も言ってみます。そうすれば自分自身「思いの電車」に乗ることなく、「思いの電車」を、やり過ごすことができるようになるのです。過去にいろんな事件があって、恨んでいる人がいれば、心の中ではっきりと「『恨みの電車』よ、私は乗らないよ。早く行ってしまいなさい」と言ってみてください。次第に自分の心の中の雑念を、主管できるようになり、「今」という大切な時に、今やるべきことに、集中することができるようになるのです。そうすれば、私達は、自由に「思いの電車」から降りて、今を大切にできるようになります。

 さて、皆さん、今日から7日ほど、「思いの電車」を自覚してみてください。そして、はっきりと「思いの電車」に「私は、乗らないから早く過ぎ去れ」と心に言い聞かせてみてください。そうすれば見違えるほど今に集中できるようになるでしょう。貴方は、素晴らしい、過去と未来を手に入れることができるはずです。