世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

香港民主派の闘い~「自由か。然らずんば死を」

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 今回は11月30日から12月6日までを振り返ります。

 この間、以下のような出来事がありました。
 米、バイデン氏に機密情報届く(11月30日)。英、ファイザーのワクチン承認(12月2日)。香港裁判所、黄之鋒、周庭両氏に禁固刑判決(2日)。香港、蘋果(ひんか)日報創業者の黎智英氏を収監(3日)。米、中国共産党員のビザ規制強化発表(3日)。中国側「中国憲法は香港に適用」を明言(4日)。「はやぶさ2」カプセル発見 豪の砂漠(6日)、などです。

 香港の裁判所は12月3日、中国批判で知られる香港紙・蘋果日報創業者、黎智英氏に対する詐欺罪(不動産の賃貸契約に反したとされる)での初公判を開き、保釈申請を却下して収監を命じました。黎氏の拘留は来年4月16日の第2回公判まで続くと見られます。

 黎氏は8月に国安法(国家安全維持法)違反と詐欺などの疑いで香港警察に逮捕された後、保釈されていました。しかし今回は逃亡や再犯の恐れを理由に保釈申請が認められませんでした。
 黎氏は香港メディア界を代表する人物であり、民主化運動を支援し一党独裁の中国共産党政権を批判する著名な論客です。

 前日2日には、黄之鋒氏、周庭氏らが実刑判決を受けたばかりでした。「逃亡犯条例」改正案を巡る無許可のデモを組織して、参加者を扇動した罪です。黄氏には禁固1年1カ月半、周氏は禁固10カ月の実刑判決でした。
 共に6月の国安法(国家安全維持法)施行に伴って解散した民主派の政治団体「香港衆志」(デモシスト)の中心メンバーです。

 黄氏は2014年の民主化デモ「雨傘運動」を巡り2度服役したことがありますが、周氏は実刑判決を受けたのは初めてであり、判決が言い渡された時、法廷で涙を流したといわれます。

 黄氏は判決後、「これは闘いの終わりではない。多くの勇気ある抗議者と共に監獄での闘いに加わる」とコメントしました。弁護人は控訴する意向を明らかにしています。

 昨年の逃亡犯条例改正に関する抗議行動を理由に拘束された者は、すでに1万人以上、そのうち2000人以上が起訴されています。強く懸念されることは、拘束された者のうち、1000人以上は18歳未満の中高生だということです。そのため香港政府は、学校での愛国教育の強化に乗り出しました。

 18世紀、イギリスの植民地だった北米のバージニアでイギリス支配に異議を唱える者たちの代弁者となったパトリック・ヘンリー(弁護士、政治家)の言葉が思い起こされます。
 最も有名な演説は、1775年3月23日に行われたものです。イギリスの支配に異議を唱える抵抗運動に参加するように訴えた演説です。

 「鎖と隷属の対価で購(あがな)われるほど、命は尊く、平和は甘美なものだろうか。全能の神にかけて、断じてそうではない。他の人々がどの道を選ぶのかは知らぬが、私について言えば、私に自由を与えよ。然(しか)らずんば死を与えよ」

 黎氏、黄氏、そして周氏。数千、数万人の自由の戦士が命を賭して独裁と戦っています。欧米諸国から非難の声も上がっています。
 非難の声を上げることは重要ですが、共産主義の攻勢をはねのけるには不十分です。懲罰的手法、「制裁」が必要なのです。国際社会が連携して実行することを強く求めます。